「来世より現世」ウーマン・トーキング 私たちの選択 ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)
来世より現世
いったい何時の頃の話だよと、疑念が心にわだかまりながら観続ける。
女性は皆々地味な服装で装飾品も寡少。
男性も大人も子供もオーバーオール デニムがまるで制服のよう。
移動は自動車ではなく馬車。
子供の遊具も無い。
夜になればランプに火を灯し、
街灯なども視野には入って来ず。
おそらく電化製品も無いのではないか。
しかし幾つかのヒントが小出しにされ
次第に時代が明らかに。
その提示の仕方が頗る巧い。
第二次大戦の話題にふれ、
傷の手当てに「バンドエイド」が使われ、
最後にはそのものずばりの年代が提示され、
その事実に驚愕。
もっとも、
〔刑事ジョン・ブック 目撃者(1985年)〕で描かれた
「アーミッシュ」のように、宗教上の理由から近代文明を拒否する集団はあり。
それにしても、女性の識字率がほぼゼロで
教育すら受けていないとは行き過ぎだろう
(あ、でも「ISIL」は、これを目指してるんだっけ?!)。
ただどうやら舞台はアメリカではないことも提示され、
その広大で肥沃な大地は南米のどこかだろうか。
その豊かな、しかし閉鎖的なコミュニティで起こった忌まわしい事件。
一部の男たちが女たちに牛用の鎮静剤を噴霧、
意識を失っている間に性的虐待をするとの行いが
数十年に渡り繰り返され。
女たちは父親が誰とも判らぬ子を産み、
性的にも肉体労働的にも搾取される。
結果、近親婚に近い状態が生じ、
次第に人としての生命力は減じて行くはずだが、
獣と化した男たちはそんなことには頓着せず
快楽を貪る悪魔に変ずる。
しかし、あることをきっかけに事態は露見し、
主要な犯行者は逮捕。
もっとも、保釈金を払っての仮釈放は容易に想定、
彼等が帰って来るまでの二日間に
女たちは今後の身の振り方への決断を迫られる。
何事も無かったように今まで通り過ごす
男たちを相手に戦う、
村を捨て逃避する、
の三案のうち第一案は早々に却下され
残り二案を選択のため、
女たちは納屋の屋根裏部屋にこもり激論を戦わす。
が、その話し合いでは
因習や管理・支配する側に都合よく捻じ曲げられた宗教解釈が持ち出され、
容易には決まらない。
とりわけ、コントロールする側が便利に使う
「来世で約束される幸福」が彼女たちを悩ませる。
果たして女たちはどのような決断を下すのか。
法廷劇さながらに、カメラはほぼほぼ屋根裏部屋から出ることはない。
それが独特の緊張感を生む。
男性として唯一その場に参加をしている
『オーガスト』の存在は一服の清涼剤のよう。
知識を持つことが、選択肢を広げるとの見本として示される。
最後に女たちは、過去に囚われることなく
自分の子供たちが正しい道に進めるための選択をするのだが、
それは今の時代でも懲りずに搾取を目論む男たちに聞かせてやりたいもの。
この手の作品にお馴染みの『ブラッド・ピット』が
製作総指揮としてクレジットされているのに加え、
〔スリー・ビルボード(2017年)〕や〔ノマドランド(2020年)〕の『フランシス・マクドーマンド』も
製作に名を連ねており。
海外の俳優さん達は、ホントに社会問題に対し
意識が高いなぁ。