「馬鹿馬鹿しいギャグ漫画に社会性を忍ばせる唯一無二の存在」しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE 超能力大決戦 とべとべ手巻き寿司 クニオさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0馬鹿馬鹿しいギャグ漫画に社会性を忍ばせる唯一無二の存在

2023年8月15日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

 もう大昔からクレヨンしんちゃんはPTAの嫌われ者、エロ全開の下劣が売りでしばしば過激でもある。なにしろ「漫画アクション」での連載スタートですよ、少年向けでは全然なく「大人向け」の漫画雑誌、当然にギャグ漫画に分類される。テレビでのアニメ放送開始から、その影響を鑑み若干子供寄りとなったものの、世相に敏感なのは一貫しています。だから映画版はそれらしくスケールをアップした設定としつつ、時代の雰囲気を巧みに取り入れ現在に至ります。この辺り「ドラえもん」と比べれば一目瞭然の違いがある。映画のターゲットはズバリ子供とその親の両方なのが特徴的。ドタバタギャグで子供を喜ばせ、世相を斬り人間愛を謳い大人の感動に導く、ずっとこの方式。だから3DCGとなった本作でも何ら変わらない、だからいいのですよ。逆に言えば世相の取り込みに少々の無理も感ぜられるのが可愛い所でもあるのです。

 それにしてもなぜ3Dアニメなのか? 何故春の公開ルーティンを壊してまで? きっと理由がありましょうが、観るかぎりディズニーのような流麗な3Dアニメでは全然なく、これで3Dアニメ?のレベルに驚きつつ安心もしてしまった。本作のラストに登場の2024版の予告は平面アニメのようですので、今年限りなのかもです。いずれにせよ、開巻5分で観ていれば違和感は消えてしまいます。

 で。本作の主人公は「リア充」全然出来ない青年で、非理谷充、非リアジューをもじってます。ベテラン声優に交じって、ウッとかアッの声出しのぎこちなさで一発で松坂桃李とわかりましたが。この哀れな青年の来し方を描くクライマックスが本作での泣かせ処となります。同時に5歳児が放り投げられたりのハードなシーンも登場しますが、あくまでもクレしんの範疇ですから何も心配ありません。

 普段は一家バラバラのようなシニカルなお笑いが、一家共通の敵登場の瞬間に、一致団結が本作のお約束。疎外された男児に寄り添うしんちゃんに胸熱です。もちろんキーワードは「仲間」、「友達」としなかった辺りに距離感も読み取れますが。いよいよ怪物の体内で、不思議な過去に遡る悲しい現実を通じて、現況の日本の危うさが語られる仕組み。確かにあらゆる世界標準から日本は順位を大きく落して劣化著しい、給与も、成長率も、幸福度も、報道の中立度も、競争力も、論文引用数も、発明件数も、男女平等に至っては125位、LGBTQも、GDPも、なにもかも大幅に順位を落としている、上がっているのは軍事費だけ。そんな閉塞感を非理谷充に託し、彼を救うことで「まだ出来る事がある」と訴求する野原一家の活躍が本作の肝です。

 虐める馬鹿な奴等に立ち向かう事が閉塞を打破することなのか?と少々詭弁にとられかねないですが、要は避けてきたことに真正面から向かい合う事をヒロシもミサエもひまわりすらも訴求するわけで。ここで異議を唱えないと本当に未来はない!のですから。今回何時も以上に母の子に対する熱烈な愛情をミサエの演技に強烈に反映で、必死に我が子を案ずる姿が実に尊い。残念なのは、少々この怪物が妙にリアルな気持ち悪さなのが玉に傷、春日部防衛隊の出番なし、と不満にもなりました。

 改めて、クレしんの意義と言いましょうか、アニメ映画群雄割拠の時代に確たる立ち位置を維持している事実は凄いの一言です。自らクレしんで育ち、今は自分の子を連れてゆくサイクルが本作を支えている、この現実の重みが深いのです。

クニオ