「菊地凛子が引っ張っていく658km」658km、陽子の旅 いも煮さんの映画レビュー(感想・評価)
菊地凛子が引っ張っていく658km
好き系ロードムービー。
父娘の確執から故郷・青森県弘前を離れて20年の陽子に届いた突然の報せは父の死だった。
やりたいことがあって都会を目指したはずなのに挫折して、屈折して、自己肯定感がめちゃめちゃ下がってしまった頃には人と話をすることすらまともにできなくなっていた陽子、42歳。
あー、こういう人、現代に確かにいるんだろうなぁ。パソコン・スマホがあれば人と接していなくても仕事はできる、食べていける。でも、何が楽しいのかな。
レンチンしたイカ墨パスタで唇を真っ黒にしながらパソコン画面に向かって毒づく陽子。こんな人間が未来にはワンサカ増えているのじゃないだろうか。
決して他人事じゃない。
そんな陽子はひょんなことから父の葬儀の青森までひとり658kmの道程をヒッチハイクで目指すこととなる。
スマホ使えない、所持金二千円ちょい。青森行くのに薄着。
なんでこんなことに!の理由がうまく描かれてる。
荷物の上にスマホ置いて荷物ごと持ち運んでスマホ落っことす。あるねー。
記念にと小銭入れに挟んだままで使う予定もない二千円札!あー、私もやってた!
そんなちょいとした描写がセリフなく綴られていく、その見せ方がとても好みだ。
人にパンをもらっても「ありがとう」のひと言も言えなかった陽子が、終盤に向かうにつれて本心からの「ありがとう」が言えるようになる。
泣けるよね。だって心のこもってない「ありがとうございます」は私も日常的に吐いてる。仕事だから。
久しぶりに魂のこもった「身体に気をつけて」の言葉を聞いたなぁ。
と思ったら泣いていた。
あそこでいも煮さんが言われる〝魂のこもった言葉〟を聞いたときは私も嬉しかったです。ようやくトンネルの先の光がみえたような…。浜辺のシーンでトラウマの深さを感じましたが、それを克服するきっかけは父の死から始まる人との触れ合い。苦しくなりながら陽子を見守りました。