「冗語の世界」せかいのおきく 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
冗語の世界
2023年。阪本順治監督。江戸時代末期、糞尿処理と紙屑拾いの若者二人と、不正を告発して落ちぶれた武士を父に持つ娘の出会いとそれぞれの生活を描く。糞みたいな世界(比喩)を呪いながら糞にまみれて生活する(現実)男たち。言葉にできない感情を抱えながら、実際に言葉を失ってしまう娘。二重化している映画世界のなかで、しかも登場人物たちはそれを自覚してネタにしており、多分に演劇的に生きている。ひとつの事態が三重化しているのだ。
肥溜めのシーンがこれでもかと描かれることではなく、このしつこさに辟易するか、面白い試みとみるか。徹底して市井の人々の暮らしと感情に寄り添い、それを美しいと感じる阪本監督の感性に寄り添えるか。瞬間の美しさを捉えることに躍起となって、カットのつらなりから浮かび上がる運動や感情はさほど意に介さないことに意を唱えるかどうか。いろんな意味で見る者を選ぶ映画だ。
自然に優しい江戸の循環型社会が社会的差別を内包していること、そのなかでも咲く花があること(もちろん蓮!)という物語の要諦を見逃す者はいない。
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