「お別れの挨拶」おひとりさま族 かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
お別れの挨拶
この映画、現在韓国で流行りのフェミニズム映画ではない。一見すると、クレジットカード会社の有能なオペレータージニが孤独な自分の生活を見直し、心を開いていくヒューマンドラマのような体裁をしているが、もっとドメスティックな家族に関する物語なのではないだろうか。他の映画に例えるならば『ラースと、その彼女』に似ているのかもしれない。
本当はひとりが大嫌いなジニが自分の殻に閉じ籠り、他人との接触を極力避けて、いつも怒ったような表情をしていたのはなぜなのだろう。17年前に家族を捨てて数年前ひょっこり帰ってきた父親がまた母親と同居を始めた。直接的な原因は多分そこにあるのだろう。映画内ではっきりとした説明はないものの、自分を捨てた父親、そしてそれをあっさり受け入れてしまった母親を、ジニはどうしても許すことができなかったのではないだろうか。
この映画“あいさつ”が隠された謎を解く一つのキーワードになっている。アパートの隣室で孤独死した男の幽霊が、いつもベランダで🚬を吸いながら、黙って通り過ぎようとするジニにむかって「あいさつは?」と語りかける。職場ではつかえない新人ちゃんの教育係を任せられたものの、ジニが冷たく接したせいだろうか、ある日突然“あいさつ”もなく職場に来なくなってしまうのだ。この新人ちゃんとの関係が、擬似的な親と子の関係になっていることを観客は気づかなければならない。
隣に越してきた骨折男が名も知らぬ自殺男のため“さよなら会”を催しているのを目撃し、父さんが部屋に教会関係者を呼んで母親の49日を営んでいるのを(隠しカメラで)見たジニは気づくのである。「私、死んだお母さんにちゃんとお別れの挨拶したっけ?」会社を辞めた新人ちゃんへフォロー電話が亡き母親へのその“お別れの挨拶”(の代わり)になっているのである。ラスト、連絡先の表示名を母さん→父さんに変更したジニは、遅ればせながら母親の死を受け入れることができたのだろう。マッチで火をつけた🚬を線香代わりにして...