「この映画のキャッチコピーは「絶望エンターテイメント!!」」波紋 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画のキャッチコピーは「絶望エンターテイメント!!」
筒井真理子の演技力と真価を更に上げた映画
「波紋」でした。
「よこがお」では善良な訪問介護の看護師の役だったけれど、
悪意ではない、ちょっとした隠し事が
誤解から世間の大変なバッシングを受ける役だった。
筒井真理子はこの役で本格的に主役を張れる女優になった
気がします。
それまではほんわかした雰囲気の上品なお母さんや奥さん役が
多かった気がします。
「よこがお」の妻でもない母でもない《危うい女》
男が安心させない、
妻を「お母さん」と呼んで甘える種類でない女、
(本作では何度も、舅と修の胸に触ろうとする手を、
(修の肩を抱き寄せる手を、バシッと拒絶します)
その緊張感がこの映画でも発揮されてると思います。
水面に水滴がポトリと落ちる。
波紋が広がり大きな弧を描いて広がる。
この映画の「波紋」の1つは、
蒸発した夫が10数年ぶりに帰宅したこと。
2つ目は、一人息子が難聴(聴覚障害者)の女性を結婚相手として、
連れてきたこと。
依子(筒井真理子)は10年以上介護した義父を半年前に
葬ったばかりなのに、自分を捨てた夫・修(光石研)が、
癌を患い、
「最後は君に看取ってほしい」などと虫の良い事を言って、
「枯山水」の美しく整った庭から、
ずかずかと上がり込んでくる。
(因みに須藤家は「枯山水」を突っ切らないと入れない造り)
整理整頓された美しい居間に、以前のエリートサラリーマンの
片鱗もない加齢臭の男。
依子の嫌悪と冷たすぎる氷の視線が痛い。
(バイプレイヤー・光石研がうまいです)
また、息子の恋人は活発な障がい者の女性で、
依子が、
「別れてくれと切り出した時は、
「家も親の縁も切る」
だいたいあの人は「頭がおかしいんだから」と、
息子の拓哉(磯村優斗)に、
告げられている恋人のタマエ。
タマエへの差別感情をを露わにして、一言の労いも、
思い遣りもない依子。
息子が「頭がおかしいんだから」と母を突き放す理由は、
「緑命会」という新興宗教にのめり込み、緑命水という
「神水」を買いだめし、祭壇に怪しい水晶玉を飾り、
支部長(キムラ緑子)の元で緑命会に相当に多額なお金を
注ぎ込んでいるようだ。
150万×3=450万円の修の癌の高額治療費。
出し渋る依子は交換条件のように緑命会の集会所に
修を連れて行く。
(新会員を連れて行くと、普通、喜ばれるし地位が上がる筈)
(それに宗教を信じる人は布教を迷惑がられるとの
(視点が欠けている・・・喜ばれる・・との勘違いがある)
「川っぺりムコリッタ」に漂っていた牧歌的“ほんわか“な
一面から、「波紋」のブラック・コメディかと思うほどの
切れ味の鋭さ。
荻上直子監督・脚本の違う顔を見せて頂きました。
それにしても演劇出身の良い役者を揃えたものです。
安藤玉恵、江本のりこ、平岩紙、木野花や別格の柄本明。
実際に難聴の女優・津田絵理奈のリアリティ。
本作の柄本明はちょっと怒鳴るだけで、勿体なかった。
(半額に値切る客にしては立派過ぎる・・・)
その点でムロツヨシはメガネにヒゲで、正体がバレない。
タンタカタカタ、タカタカタンタタ・・・
手拍子かな?カスタネットかも?といぶかしんだが、
フラメンコの拍子を刻む靴音・・・
ラストで棺から手首が見えたところで、
けたたましく依子が馬鹿笑い‼️
不謹慎極まりないけれど、
狂ったように雨に濡れた喪服で踊り狂うフラメンコ💃
ヤケッパチにも、女の独立宣言そして
宗教を卒業とも見えた。
喪服に赤い長襦袢が下品に見えないのは、
そしてフラメンコが本格的!!
筒井真理子さん、さすが!!
逆風にも荒波にも立ち向かえ!!
オーレ!