「作品の中でもいろんな所で波紋の起きる姿が描かれますが、観ている側の心情にも少なからず波紋を巻き起こしてくれる、そんな人間のエゴや弱さを見事に描いた作品です。」波紋 もりのいぶきさんの映画レビュー(感想・評価)
作品の中でもいろんな所で波紋の起きる姿が描かれますが、観ている側の心情にも少なからず波紋を巻き起こしてくれる、そんな人間のエゴや弱さを見事に描いた作品です。
予告を観て気になったものの、自分には合わない
気がしたので当初鑑賞予定がありませんでした。・_・;
昨年鑑賞した「観て良かった」作品の監督作と知って
上映期間ギリギリに滑り込んで鑑賞してきました。
◇
舞台は、たぶん東京。
始まりは、東日本大震災が起きた年の春。
親子と祖父の4人で暮らしているごく普通の家。
「雨に放射能が混じっていて危ない」
TVを見てそう言っていた父(光石研)が失踪する。
特段、宣言して出て行ったワケではなく
食事時に呼びに行った息子が母に知らせる。
「父さん、居ないよ」 「…え?」
庭を探す依子(筒井真理子)。
水やりの途中。ホースから水を出したまま。
そのまま、父は戻ってこなかった。
そして10年と少しの時間が流れる。
再び家族の暮らしていた家。ゴミ出しをする依子。
かつて植物がびっしり植えられていた庭は
草木が全く無い、「枯山水」の庭となっていた。
リビングには立派な祭壇。
その前に座り、手を合わせ拝む依子。
次に引出しから遺影を取り出し卓上に。祖父だ。
申し訳程度に手を合わせ、また引き出しに放り込む。
立派な祭壇には「緑命会」の御神体。
緑命会は、依子が入信した新興宗教だ。
遺影は祖父。失踪中に亡くなったようだ。
立派な祭壇に比べ、扱いの程度が知れる。 うむ…
10年前は高校生だった息子(磯村勇斗)。
高校卒業と同時に家を出て、九州で進学・就職した。
依子ひとり、この家で暮らし続けている。
心の支えは「緑命会」そして「緑名水」。
そんなある日。 「父帰る」
恐る恐る、依子に声をかける父。
” 祖父の位牌に手を合わせたい”
” 家に上がってもいいか ”
依子の心中にドス黒い感情が湧き起こる。
感情を押し殺し、般若面のようなカオで家に入れる。
” 拝んだらすぐに出て行ってもらう ”
依子の気持ちを察しているのかいないのか
食事を要求し、泊まっていくと寝床までも求める父。
黒い感情を抑えるには「緑名水」だ。 飲んで一息。ふー。
御神体に手を合わせ、感情を押さえつける。
父が切り出す。
「俺、実はガンなんだ」
「この家で最期を迎えたい」
「ガンの治療にカネがかかる」
” 何を勝手なことを…!”
依子の中に「我慢ならない」感情がどんどん増えていく。
それは、夫との間の事だけにとどまらない。
・パート先スーパーの客の図々しいジジイ(柄本明♡)
・庭に侵入してくるネコの飼い主
・突然、交際中の女性を連れて帰省する息子
依子が縋るのは「緑命会」。
困ったときには「緑命水」。
この家族の行く末、果たしてどうなるのか…
◇
と、まあ
現代の世の中が抱えている問題を
これでもかと言わんばかりに詰め込んで
お話は進みます。
「 鑑賞後、愉快な気分とは言い難い 」 けれど
「 あるある、と強烈に共感してしまう 」
そんな不思議な味わいの作品でした。
見応えは充分なのですが
疲れている時 とか 気持が沈んでいる時 などには
観ない方が無難かも とも思います。 (…ホントです)
私は元気なときに観たので、観て良かった。 ・_・
満足です。
◇あれこれ
■親子ねぇ
介護されながら、依子の胸に手を伸ばす祖父。…(無言で排除)
介護されながら、依子の胸に手を伸ばす父…。…(フっ と笑い)
「…親子ねぇ」
「…えっ?」 と父
平穏ではいられなくなったような気が…。(⇒父)
■あの寺は?
息子から頼まれ、息子が連れてきた女性を連れて
観光案内に出かけた依子。
スカイツリーの次に「どこかの寺」を訪れているのですが
どこの寺だったのか。
※もしかして、「縁切寺」に連れて行ったのでは?
などと考えてしまいました…。・_・;
■あの手話は?
息子と共に家を訪ねてきた女性タマミ。
耳が不自由だが、声と手話で息子と会話している。
「水が欲しい」 と
依子が出した「緑名水」を飲んだ直後だけ
息子と「手話」だけで会話をしていました。
※手話で緩和した内容はなんだったのか…。気になってます。
(聞かれたくない内容なのでしょうけれど…)
■ムロツヨシ
観ている最中にはムロツヨシがどこにいるのか
見つけられませんでした。 …無念。
※緑命会の信者メンバーの誰かかな?
とか思ったのですが… 違う気がする…。
ムロツヨシはいったいどこに…。
■場面展開時のタップ音
カスタネットのような「タタタタッタタッ」 という音。
何か意味があるのか気になっていたのですが
最後になって ” フラメンコ ” のリズムかと思い当たりました。
ラストシーンへと繋がると綿密な仕込みなのかも。
そう考えたら、すごい構成だと感心。
■嫌なジジイ
商品に難クセをつけては「半額にしろ」と
値引きを要求する爺さん。
柄本明ならではの存在感と迫力に拍手。♡
※現実に目の前にこの爺さんがいたらイヤかも…
◇最後に
ストーリーの前半(というか序盤)
返ってきた父を、ゴミを見るように扱いながらも
何となく迎え入れてしまっている依子。
そこにずっと違和感を感じながら観ていました。
それが、
「貴方のした事が、無かったことにはできない」
の発言になり、
出棺の際、落とした柩の中から「手」が出てくる場面での
「大笑い」となり、
出棺後の庭先、雨の中での
「フラメンコ」へと
繋がって行った気がします。
依子はやっと開放されたのだろうか と
何故かほっとする気持ちにもなりました。
☆映画の感想は人さまざまかとは思いますが、このように感じた映画ファンもいるということで。
お返事ありがとうございます♪
水の消費期限切れについては修が炊き出しの際依子に言った言葉だったと思います。
(その時ムロさんもいましたよw)
善意の活動とかいって期限切れの水配ってるじゃないか、みたいな。だから俺の高額治療もさせてくれよみたいな?感じだったでしょうか?
記憶違いならすみません( ; ; )
でも依子もあんなに緑命水溜め込んでいましたもんね。たぶんただの水だと思うので、、
古いの、飲みたくないですよね。
仰る通りで色々想像出来ますねw
私も想像なのか妄想なのか幻覚なのか(これはないかw)色々考えるのが好きなので♪
又共感作で
お話しさせて下さい(o^^o)
こんばんは。
私もあの手話だけの会話気になっていました!!!
手話がわからないので推測ですが、依子をバカにしたような事ですよね。たくちゃんの「あの人頭おかしいから」発言もあったように、きっと、「あの変な宗教の水しかないよ」とかそんな事ですよね。
その後のたまちゃんの表情も曇っていましたし。。
こんな事なんだろうとは思いますが
「正解」を知りたいですよね!!同感です!!
今晩は。いつもありがとうございます。
私は本作は、公開二日目の土曜の早朝に観に行きました。それは今作が、それまでの荻上監督作とは明らかに違うと思ったからです。
それにしても見事なレビューですね。
”■あの手話は?
依子が出した「緑名水」を飲んだ直後だけ
息子と「手話」だけで会話をしていました。”
これは、気が付きませんでした。けれどあの後明らかに彼女の態度は変わりましたよね。
■ムロツヨシ
ここは、私は気づきました。ホームレスの彼が言った言葉”蟷螂の雄って、雌に食べられちゃうんですよ・・。”
そして、劇中依子の心象を反映させているような”パン・パパン””パパパン!”と言う効果音。これは仰るようにフラメンコの踊りの音でしたね。メンドクサイ夫が亡くなってから枯山水の庭で狐の嫁入りの雨が降る中、喪服で舞う”柵から放たれたかのように”躍る依子の姿。
いやあ、男としては今作は怖かったです。周囲の年配の女性達が漏らす笑いのシーンが私にとってはホラーでした。
帰宅後、家人とそれまで以上に会話を交わした事は言うまでもありません・・。では。返信不要ですよ。
もりのいぶきさん
共感&コメントありがとうございます。この『波紋』で荻上監督に興味を持って過去作品を探して観ています。『かもめ食堂』『めがね』ともはまりましたので。
皆さんおすすめの『彼らが本気で編む時は、』がまだ観られてませんが。鑑賞でき次第またレビューしたいと思います。