「趣旨は多いに理解できるが、どれか一つに絞ったほうが良かったのでは…。」波紋 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
趣旨は多いに理解できるが、どれか一つに絞ったほうが良かったのでは…。
今年174本目(合計825本目/今月(2023年5月度)31本目)。
tohoシネマズさんの映画のラインナップとしては問題提起型という、万人受けるする映画ではないものの、80%くらいの埋まりようでした。
ここでもすでにかなりの評価があり、他の方が触れている点は同じになるので多言を要さずバッサリとカットします。
結局この映画で主に上げられる問題は、「問題提起は理解できるが、多数の論点を入れた割にどれも明確に最後まで描かれない」「突然帰ってくる夫に対する「正しい対応」の不足」、さらには、「個々個々、妙なまでにセリフが少なく、ある程度補う必要がある」「いわゆる、炊き出しについて」等の論点ではなかろうか…と思います。
特に1番目と3番目は他の方も触れている方がいるので、2番目と4番目は資格持ちとしては明確に気になったところです。ただ、これをどうこう言い始めると「映画のストーリーが成立しない」という妙な事情も抱えているので、どこまで考慮するのかは微妙です。
また、問題提起型の映画であることは明確も明確であるのに、ラストが珍妙な終わり方をするなど(最近の映画だと、「もっと超越したところへ」が似ている?)、その珍妙さもあいまって混乱度合いは高いです。
なお、映画の趣旨その他としては、2020年だったか19年だったか、「星の子」が趣旨的に近いです(完全に同じではない)。
行政書士の資格持ちのレベルで気になったのは以下の通りで、4.2を4.0まで切り下げています(これらの行為についてエンディングロールで説明がない点も考慮しています)。
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(減点0.4/いわゆる炊き出しについて)
・ 炊き出しについては、食品衛生法ほかこれらに関係する法律の外の場合であっても(規模要件等)、都道府県では通常、「申請義務はないが通常申請をお願いします」というようになっています。それは第一義的には「食中毒が出た場合の対応ができなくなること」と、もう一つは「無償配布か有償配布かでトラブルになるから」という2つにほぼ絞られます。
一応、「お願いします」の扱いではありますが、日本では当然、「お願いします」のレベルでもあっても、行政が管理している土地でやる場合は結局強制されてしまう点もこれも事実で、かといって映画内でこれを行ったと思われる点もなく(なお、いわゆる「炊き出し」と同時に、ワンストップ事業として生活保護の申請代行などを、行政書士でない方が行うと法律上アウトです)、ここはちょっとどうなのかな…というところです(本問題は「食品衛生法で定める範囲外であっても、食中毒を出さないように保健所が一元管理する、という公衆衛生に関する「パニックの防止」が論点なので、いかに「お願いします」とはいえ、無申請活動がまかり通ると大混乱します)。
※ なお、大震災ほか「申請に対して許可を得るいとまがない場合の緊急的な炊き出し」については、多少甘くみられているようです。
(減点0.4/そもそも主人公が取っている行為も謎)
・ 突然帰ってきた夫…という設定ですが、その「長期間帰ってこない」ことは当事者である妻が一番知っていることです。そしてその状況で遺産相続等を行うと面倒なことになってしまいます。
婚姻後の裁判上離婚は民法770条に規定があり「3年間生死が分からないとき」がありますので、これを使わなかったのか…という気がします(ただ、この規定は「生死がわからないという中途半端な一方側に強制的に申請せよ」というものではない)。また、遺産相続については行政書士・司法書士が間に入ることが多いですが(不動産の登記名義等がからまない限り、行政書士でも可能)、このとき、「そもそも法律的に決着していない、宙ぶらりんな人がいる」ということを把握していない(厳密にいえば、主人公もそうした専門家を呼んだ形跡は見当たらない)のが問題で、それが「生前に残したお金がどうこう」といった問題になってしまいます(裁判上離婚していれば、たまたま帰ってきても「ただの人」でしかない)。
こういった部分の考察が抜けているため、特に「お金の捻出方法」について明確に配慮を欠いている部分があり(当然、適正な対応を取らないのであれば、いつ帰ってきてもおかしくならないように、適切な対応が必要)、この描写が何もないのはちょっと気になりました(このように、当事者が明確に「帰ってこない人がいる」という状況で、専門家抜きで遺産相続をやるとあとあと面倒くさいことなるのは、当事者がそもそも知っているはず)。