「不幸とされる人が志願して、満面の笑みでいるのを不幸と呼べるのだろうか」みなに幸あれ Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
不幸とされる人が志願して、満面の笑みでいるのを不幸と呼べるのだろうか
2024.1.19 アップリンク京都
2024年の日本映画(89分、R15+)
祖父母の元に帰省する孫が、そこで行われていた奇妙な風習に直面する様子を描いたホラー映画
監督&脚本は下津優太
物語の舞台はある地方都市(ロケ地は福岡県田川郡赤村)
「孫(古川琴音、幼少期:久保留凛)」は東京の看護学校に通っていたが、実習を一通り終えて、祖父(有福正志)と祖母(犬山良子)のいる実家へと帰ってきた
一緒に父(西田優史)と母(吉村志保)と弟(名本伊吹)も帰ってくる予定だったが、何らかのトラブルで1日遅れるとの連絡が入った
孫は祖父母と一晩を過ごすことになったのだが、雰囲気の異質さと時折2階から聞こえてくる音が気になって仕方がなかった
地元には幼馴染(松大航也)がいたが、彼は父の怪我によって農家を継ぐことを余儀なくされていて、祖父母は幼馴染一家との関わりと禁じてくる
その理由はわからないままだったが、翌日に孫は得体の知れないものを見てしまう
それはパンツ一丁の謎の男(橋本和雄)が床を這いずっているというもので、祖父母は何食わぬ顔をして、男を引きずって2階のある部屋へと閉じ込めた
祖父母は「まだ聞いていなかったかな」と普通に接し、その風習は代々伝わるもので、「あの男の不幸によって、我が家の幸せは保たれている」という
そして、幼馴染の家ではその風習がなく、それによって不幸が訪れているので近づくなという理由があったのである
映画は、地方にありそうでなさそうな風習を描いているホラーで、抵抗する孫が徐々に感化されていく様子を描いていく
この土地では当たり前のような風習になっていて、謎の男が死んだことで代わりを探さなくてはいけないということを町中の人が理解しているという感じになっていた
どうやら選択制のようで、「ウチはやめてね」みたいなセリフもあったりする
物語は、「幸せの総量は決まっていて、それを奪い合っている世界」という前提があり、その中でどう生きていくか、を描いているのだが、設定が穴だらけすぎて失笑を禁じ得ない
その最たるものが「生贄になっている人が不幸に見えない」というもので、謎の男はわからないものの、途中で助ける中学生(増永成遥)とか、幼馴染は「志願兵」みたいな感じになっていた
いわゆる相対的幸福論と主体的幸福論の溝を考えていない感じになっていて、無抵抗の志願兵目線の幸福論というものが置き去りにされている感じがした
謎の男の儀式に関してもコミカル一辺倒で、何か薬を盛っていて恍惚状態になっているようにも思える
ある意味、この世界においては「幸福というものを考えずにいる方が幸せ」という感じになっているのだが、それを考えると、「あなたはどちら側で幸せになりたいですか?」と問うているようにも思える
みんなが幸せになるためには、率先して誰かの幸福を支える犠牲が必要で、そういった社会構造を理解して支えましょう、という感じだろうか
これが現代日本の幸福論に物申すという寓話として作られているのなら興味深い部分はあるが、それを作品から感じ取るのは無理だと思う
日本の土着ホラーにありがちな生贄論の延長線上に過ぎないので、そこに新しさを感じないというのが率直な感想だろうか
いずれにせよ、最近流行りのコメディホラーなのだが、おそらく現地の素人を大量に投入しているので「棒読み演技」が凄まじいことになっていた
それが主要キャストにいるので、無茶なことをするなあと思ってしまって、記念出演としても、これで良かったのかは何とも言えない感じになっている
主演の古川琴音ひとりの演技力でカバーできるものではなく、ここに演技派を起用している時点で、素人演技がさらに際立つようになっていた
幸福の限度性という設定は面白いものの、不幸の侵食に対する危機感がほとんどなく、パニックになることもないので、不幸すらも許容しているのなら、風習にこだわる必要がないのではないだろうか
そのあたりがスッキリしない世界観だったように思う