「観察眼」ミステリと言う勿れ U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
観察眼
田村由美さんのファンだ。
勿論、本作の原作も読んでる。
楽しかったー
テレビシリーズは見てないので、コレが初見。何より楽しかったのは、整の長台詞だ。
ちゃんとあった。いや、寧ろ売りくらいの扱いになってるのが嬉しい。
事件に関する事もそうでない事も、彼が話す持論はとてま思慮深く、本質を捉えて離さないように思う。
文字で読む時は、何度か読み返す。それが音声になって聞こえてきた今回は、脳の深くに沈殿していくようで心地がいい。
あんな考え方や捉え方をする主人公だから、彼が話す一言一句に「真」があるように思えてくる。
彼は喋る人ではなく、喋れる人で、その裏側には膨大な知識と、そこから連なる答えを持ってる。
それはそのまま、原作者・田村由美の脳内なのかも知れず…アウトプット先の一例なのかもしれない。
作中に「とある映画の台詞で…」なんて喋り出しがあり「犯罪とは努力の裏側」みたいな台詞がある。
エンドロールを観てたら、どうやら実際にある映画から引用したらしい。
驚いた!
別に創作でも構わないと思うのだ。
フィクションだし、そんな映画なくとも「映画で」と枕詞を付けちゃえばいい。
でも、存在する。
作者はその映画を観たか、聞いたかして、心に留めて原稿に落としたのだ。
小説家と漫画家の頭の中を覗いてみたいとホントに思う。特に田村由美さんの頭の中は。
「人の弱さ」とか「女性の幸せ」だとか、古くから慣習に準えて出来上がった価値観さえも覆す。
ここが変だよ日本人!的な事で大好物だ。
なんなら広辞苑とかに掲載されてる単語の成り立ちにまで言及する。長きに渡る男性上位社会の負の遺産なのかもしれない。
原作読んでて激しく頷く事も多ければ、目から鱗な事も多いのだ。
さて、そんな宇宙の如き広がりを見せる記憶領域を持つ主人公は、高性能な観察眼をも持ってる。
普段はどこか抜けてるのだけれど、彼の芯は強い。
それは歴代の名探偵の符号のようでもあり、金田一耕助しかりコロンボしかり、古畑任三郎しかり。
相手の油断を誘う為の擬態みたいなものなのだけど、彼の場合はちと違う。スキルではなく素体なのだ。
相手が勝手に見間違う。
…映像にされるとそんな事まで考えられて楽しい。
素体だからこそ、はぐらかさない。
彼の眼差しは、常に対象に向けられてるように思う。あまり瞬きをしてる印象もない。
強く静かに問いかけ、投げかける。そんなイメージがある。それは今までには無かったタイプなんじゃないかと思う。
菅田氏の真っ直ぐな目が印象的だった。
綺麗ではなく澱みのない眼差しだった。
原作は漫画なので、瞬きなんて設定が描写されるはずもなく…もし、それが役作りの一環なのであったなら、映像制作者としての功績なのかもしれない。
ラストに自供を促す台詞がまるで違和感ないのが痛快だった。快感と言ってもいい。
相手を観察し知り、想定した後の一手。あの台詞がハマったって事は、この作品は成立してるって事の証明でもあると思う。
物語は、田村由美さんが書いているのだから面白くない訳がなく…人間の心理と生理に則ったプロットで味わい深い。
ただ、映像になった分つまづきを感じた部分も無くはなかった。
田村原作のアニメなり舞台はありはするのだけど、なんとなく焦点が合ってる印象は薄く…ドラマを押し出すのは間違いではないのだけれど、実のところそこではなく。
ドラマを構築する人々への繊細な心理とか機微とか、人物に向けての造詣こそが真骨頂だと思ってて、そういう意味では大満足の一作だった。
コレはもう菅田氏を絶賛するしかなく…プッと吹き出すようなカットも多々あって、関係各位にお礼を述べたい。
楽しかったー
▪️追記▪️
『ミステリと言う勿れ』この題名について考えてみた。
ミステリを辞書で引くと
神秘的な事、謎、不可解なんて言葉が出てくる。
表題は「言う勿れ」一括りに断定するなよって言われているようにも思う。
知らないから"謎"であり、分からないから"不可解"なのだ。ならば、それについて知り、理解を深めていけば謎も不可解も消滅する。
その糸口は、何より“対話"なのだと思う。
人に向かい、先人達の文献に向き合い対話し、自らに落とし込む。
主人公・久能整がやってる事そのものだ。
レッテルを貼る前にもっとやれる事があるだろと言われてるようで、とてもイカしたタイトルに思う。
▪️余談
常々思う事がある…。
たまに、随分前に書いたレビューに「共感」される事がある。どうやって僕のレビューを見つけるのだろうか?
その作品に投稿される数百のレビューの内から掘り起こす?僕のレビューから該当の作品を探す?自分が投稿したレビューは1000を超えている。
…方法が分からない。
共感してくれた人のレビューを読もうとページに飛ぶも、スクロールしても該当の作品には辿りつかなかったりする事もある。
簡単なやり方があるなら教えてほしい。
僕にとっては、まさにミステリーだ。
喋る人ではなく、喋れる人。
素体だからこそ、はぐらかさない。
大共感です。
そして本作のタイトルに私も惹かれてドラマで見始めました。一捻りが美しいなと。
余談のミステリーもたのしく拝見しました。きっとたどりつくんですね、〝興味を持つ〟という〝事実〟で。