劇場公開日 2023年6月2日

「要約を拒否する作品」怪物 のこさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0要約を拒否する作品

2023年7月27日
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難しい

人間に無意識に備わる偏見が一つのテーマ。怪物とは、一目で分かるような暴力主体ではなく、結局のところ自分が偏見に囚われている可能性を自覚しないまま生き、行動して他者に影響を与える一人一人の人間を指す。

映画のなかで幾度となくプロットツイストが起こる。それまでこの人が「偏見」を振りかざす悪役ー「怪物」、この人が被害者なんだと特定の理解をしていた鑑賞者は、物語に新たな視点が追加されるたびに、登場人物というよりむしろ自分自身が持っていた偏見を痛感させられる羽目になる。ここで取り扱われる偏見は、客観的に明確な差別意識といったものではない。人間として世界にその都度解釈を与えながら生きる以上、正直逃れることができないとまで言えるものである。

エンディングにさえ、それらしいオチや爽快感はない。全体として、特定の明快なプロットが真相として提示されるわけではなく、鑑賞者の方で断片的な描写を繋ぎ合わせてストーリーを解釈する必要があるのが、この映画の魅力をなしている。

のこ