「ひびく不協和音」怪物 ミーノさんの映画レビュー(感想・評価)
ひびく不協和音
「羅生門」最近では「最後の決闘裁判」のようにそれぞれの主観の視点で描かれ、徐々に全体像がわかる。真実を理解することの難しさと大切さを教えられる作品。
湊の母親・さおりは、夫を事故で亡くしクリーニング店で働きながら一人息子を育てている日々。息子の成長に伴って徐々にコミュニケーションが難しくなる時期に差し掛かっていて、そんな時に息子が洗面所で髪を切っていたり、突然「豚の脳を人間に移植したらそれは人間か?」と聞いてきたり、靴が片方なかったり、水筒から泥が出てきた上に、耳をケガして帰ってくる。聞くと「ホリ先生が」と言うので、小学校へ行く。が、校長を筆頭に謝罪はするもののホリ先生含めて出てくる教員全員がおかしい。校長は孫を夫の運転ミスによって亡くしたばかりだと教頭に教えられる。何度も学校に問いただすうち、星川くんという同級生を湊が虐めていたとホリ先生に言われ、星川くんの家を訪ねる。家には本人しかいなかったが、小柄で明るく可愛らしい少年だった。ある雨の夜に湊を車で探しに行った際、走っている車のドアを急に開けて飛び降り、ケガをして休んでいる湊に向けて手紙を書いてくれる。「湊の「み」が鏡文字になってるよ」と指摘すると書くのをピタリと止める。火傷のあとを見てこの子の様子も変だとさおりは感じた。
そうこうしていると学校がホリ先生を解雇したと発表する。これで終わったかと思ったが、その後もホリ先生を学校で見かける。
ホリは目立たない児童にも声をかける優しい教師で、OLの彼女と同棲している。ある日トイレから湊が走り出てきた様子を見てトイレに行くと、星川くんが個室に閉じ込められていた。星川くんの過程を訪問すると、父親が息子のことを豚の脳みそを持ったダメな奴なので教育し直しているところだと言う。別の日、教室で湊が暴れており、抑えようとした際に湊の鼻を叩いてしまい、謝る。また女子児童から、湊が触っていた猫が死んでいると教えられる。
ある日、湊の母親が学校に文句を言いに来た。ホリが説明しようとすると、教頭以下みんなに止められ、とにかく謝るよう強いられ、嫌々であることを露骨に態度に出して頭を下げる。母親があまりにしつこいので、息子がイジメをしていると忠告する。自分の罪を夫に負わせたらしい事勿れ主義の校長に、学校を守るために辞めろと言われる。スキャンダルとなり、彼女に去られ、部屋で一人、趣味である出版物の誤植を探していると、在職時の児童の作文が出てくる。星川くんの作文の誤字をチェックしていると、ある事実に気付く。
星川エリはクラスの男子児童からイジメを受けていた。そんな中で、麦野くんはいじめない人だとわかる。彼に頼まれた通り、最初は親しくないフリをする。ある日トイレに閉じ込められていると麦野くんが来るが助けてはくれず、ホリ先生が開けてくれる。またある日図工の時間にまた男子に嫌がらせをされていると、面と向かって彼らを止められない麦野くんが教室で暴れる。そこにホリ先生が来て麦野くんを制止した時、手が麦野くんの鼻に当たる。帰り道に靴を片方貸してもらったりして徐々に距離が縮まり、秘密基地である廃線の車両に案内する。中を飾り付けて、2人だけでゲームをしたり、宿題の作文を書いたりして過ごす。そんな時、星川くんの父親が息子を母親の元に送るため、転校だという。2人一緒にいられなくなると思った時、友情以上の感情に気づく。
そしてある日、大雨で土砂崩れが発生する中、帰って来ない湊をさおりが探しに出る。更に2人のメッセージに気づいたホリがさおりに連絡し、2人で廃車両を見つけるが、雨がきつくてドアを開けることが出来なかった。
湊が一人で悩んでいると、そこに校長先生がいて、そんな時は…と管楽器の吹き方を教えてくれる。下手なトロンボーンと校長先生のホルンで合奏する。この妙な演奏が不協和音の正体だった。
特にいじめられっ子のエリくんは保護者の理解もなく、これからの2人の幸せを願わずにいられない。ラストシーンが現実であれば…。
土砂降りのシーンは「海よりもまだ深く」を連想した。