「建前は別にして自分ごとになると、LGBTも含め先入観や偏見に満ち溢れ真実を重視しない私達のあり方・考え方にNOを突きつけた凄い日本映画」怪物 Kazu Annさんの映画レビュー(感想・評価)
建前は別にして自分ごとになると、LGBTも含め先入観や偏見に満ち溢れ真実を重視しない私達のあり方・考え方にNOを突きつけた凄い日本映画
坂元裕二 脚本・是枝裕和 監督による2023年製作(125分)の日本映画。
配給:東宝、ギャガ。
母親(安藤サクラ)とは異なる新たな視点による映像が積み重ねられ、その度に新たな事実が浮かび上がり、コノ映画凄い!面白い!と思いながら見ていた。
そして、最初怪物に見えていた先生方(田中裕子、永山瑛太)が、実は教育熱心な先生方であることが分かってくる。同時に、ただ子供のことを思って一生懸命活動している母親が、学校側(例えば教頭先生の角田晃広)からはモンスター・ペアレントと見えてしまうことにも気が付かされる。
父親(中村獅童)からLGBTであるため、ブタの脳が入っているとモンスター扱いされている依里(柊木陽太)も、猫死体に関わってる様で観客視点からも不気味で怪物の様にも見える。私自身も、あのビル火災は彼の放火かと思ってしまった。湊(黒川想矢)も親に先生から暴言や暴力を言われたと嘘をつき、依里を虐めるとんでもない子供に思えてしまう。
しかし、依里は猫を殺していない様で丁重に火葬してあげただけが真実の様だし、かなり近い距離のところに居てチャッカマンは持っていたが、放火をした証拠的映像は無い。湊が依里を虐めている様に見えたのは彼を守ろうとした流れだし、暴力は偶然に顔に先生の腕が当たってしまっただけだし、嘘をついたのも、好意を覚えてる依里が父親から言われたことが頭に強く残っていて、LGBTを自覚し始めた彼が受けた言葉を自分ごとと感じたための様。
結局、怪物はこの映画では、何処にもいない。あいつもこいつもそう見えるのは、真実をしっかりと見ようとしない、先入観を持って疑おうともしない、そして直接聞いたり調べようともしない人達が、頭の中に作ってしまう妄想。それを、放火犯認定してしまった自分も含めてだが、貴方もそうでは無いですか?と、この映画を見ている観客一人一人に突きつけてくる、なかなかに挑発的な映画でもあった。ウーン、凄い脚本だ。
自分は、校長先生(田中裕子)が本当は孫を車で轢いたとの噂話を、当初信じてしまった。しかし、スーパーで足をかけたのは子供の将来を真剣に考えて危ないよとのメッセージを送ったとの解釈は可能だし、机の上には孫の写真が目立ったかたちで飾られていて人間心理的には轢いていない様に思われる。そして、実際の加害者と認定された夫との面談時の会話では、普通の老夫婦の会話の様で、田中が夫に庇ってもらったといった負い目は何処にも見られなかった。これも結局、噂話で凝り固まった先入観でものを見ていないですか?という映画製作者たちが観客に仕掛けてきた罠と思えた。
子役二人(柊木陽太と黒川想矢)のナチュラルな演技は、素晴らしかった。演技や演出を全く感じさせない是枝監督の匠の技は、今回も本当に素晴らしかった。そして、2人の秘密基地であるトンネル先の廃電車、オープンセットとして製作(美術三ツ松けいこ、セットデザイン徐賢先)されたらしいが、子ども時代にこんな場所あったらと憧れる様な感じで、その造形はとても良かった。そして何より、そこで戯れあい、はしゃぐ二人が何とも初々しかった。
嵐の日、二人は秘密基地の廃電車の中に閉じ込められる。土砂崩れのため電車も横転したが、彼らは無事に脱出。嵐が過ぎ去った後、彼らは眩いばかりの陽光が降り注ぐ中、線路に向かって笑いながら新緑の中を走って行く。楽しそうに走っていく二人からは覚悟を決めた様な突き抜けた幸福感が溢れていた様に思えた。その二人を捉えるカメラワーク(撮影は近藤龍人)が、坂本龍一の遺作となった控えめなピアノ音楽と共に、何とも心地よかった。
彼らはきっと、大変なこともあるのだろうが、力強く生きていくのだろう(あまりに明るい映像で、一部に天国説が唱えられているが、死亡を示唆する映像は無く、それは違うと判断出来る)。
とても良く出来たミステリー映画様のかたちで、建前は別にして自分ごとになると、LGBTも含め先入観や偏見に満ち溢れ、真実を重視しないに私達のあり方・考え方にNOを突きつけた凄い日本映画を、まさに今見ることが出来たことに大きな感動を覚えている。
監督是枝裕和、脚本坂元裕二、製作市川南、 依田巽 、大多亮、 潮田一、 是枝裕和、エグゼクティブプロデューサー臼井央、企画川村元気 、山田兼司、プロデュース川村元気、 山田兼司、プロデューサー伴瀬萌 、伊藤太一 、田口聖、ラインプロデューサー渡辺栄二、撮影近藤龍人、照明尾下栄治、録音冨田和彦、音響効果岡瀬晶彦、美術三ツ松けいこ、セットデザイン徐賢先、装飾佐原敦史、 山本信毅、衣装デザイン黒澤和子、衣装伊藤美恵子、ヘアメイク
酒井夢月、音楽坂本龍一、キャスティング田端利江、スクリプタ−押田智子、助監督森本晶一、制作担当後藤一郎。
出演
安藤サクラ早織、永山瑛太保利、黒川想矢湊、柊木陽太依里、高畑充希広奈、角田晃広正田、中村獅童清高、田中裕子伏見。
ゆりは父親から虐待されて死んだのだと思うなあ。ミナトがあそこに行ったの、死んだ猫を生まれ変わらせるために、あそこで火葬にしたのが複線になっている。
中村獅童は自分のしでかしたことに恐れ慄いて、荒らしの中に逃げ出したのだろう。
皆様、コメントありがとうございます。
見終わった後になお、種々の考察をこれだけ楽しめるってのは、本当に素晴らしいですよね。
田中裕子・校長先生の言葉の意義深い意味は最近ようやく分かった気がしてますが、永山瑛太演ずる保利先生が自殺をやめた訳、音楽室からの湊と校長先生の鳴らす音がきっかけになった様ですが、そのやめる際の心の動きや経緯・理由が自分には良く分かっておりません。
どなたか御教授していただけたら,嬉しいです。。
Kazz Annさん、コメントありがとうございます♪
変に裏読みするよりも、「2人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ」というハッピーエンドとして受け止めたいですよね〜😆
同感です。
行方不明になった二人については、映像表現から事故を示唆するに留めていると感じました。現実は厳しいと示唆していると感じました。
ラストの二人の親密さに作り手のクィアなどの多様性に対する暖かな眼差しを感じました。現実は厳しいが希望はあるという作り手の想いを感じました。どんな作品でも希望を感じるラストにして欲しいですが、本作は、ハッピーエンドとはいきませんでしたがグッドエンドでした。
では、また共感作で。
ー以上ー
いろいろな考察ありがとうございました。勉強になります。少なくとも是枝監督、坂元脚本の意図は貴殿のおっしゃるとおりかと思いました。・・ただ、着火マンは映画的には犯人確定かと❓いいねありがとうございました。😊