「愚民よ、これがJホラーの成れの果てだ。」禁じられた遊び 映画野郎さんの映画レビュー(感想・評価)
愚民よ、これがJホラーの成れの果てだ。
一般試写会にて鑑賞。
中田秀夫監督の最新作である。いつもの如く期待せず行ったが…まあ予想通りの出来だった。以下、ダメポイントを挙げていく。
①(恐らくは原作準拠ゆえの)目新しさの無さ
今作、ホラーファンにとっては既視感(というかパクリの寄せ集め感)が強いことだろう。『ペットセメタリ―』『富江』『ぼぎわんが、来る』の要素を繋ぎ合わせたような話だ。ラストのオチがペットセメタリ―そのままなのには失笑してしまった。
勿論、ジャンル作品なのだから過去作と被ることは往々にしてある。だが、欲張って要素を詰め込んだがために、それらの名作の持ち味を理解していないのが残念だ。澤村伊智のエンタメ性も、スティーヴンキングの圧倒的なドラマ性も、伊藤潤二作品の狂気もない。表層をなぞっているだけだ。
②霊能力設定のおかしさ
本作には一つどんでん返しがある。幽霊の仕業かと思いきや、実は生霊(霊能力)でした…というオチ。アイデアそのものは悪くないのだが、いくつか問題点が露呈してしまっている。
一つは、後付けによるロジックの破綻だ。物語中盤までは、旦那の浮気絶対許さない幽霊妻による主人公への嫌がらせ(の態で)で進む。それが実は息子の生霊だった…と判明するのだが、それなら何故女性霊の形で主人公を襲うのか?なぜ少年の知りえない霊能者や友人まで標的に出来るのか?僅か7歳で浮気だの性欲だの理解出来てるのスゲーなお前!?…疑問は尽きない。まあ後付けだから仕方ないのだろう。
これに付随する問題として、霊能力設定のインフレ具合がある。女幽霊の嫌がらせ精神攻撃だったのなら分かる。しかし洗脳・ネクロマンシー・読心・果ては念力と万能度合いが上がるにつれ疑問も湧く。なら息子は、初めから主人公の首へし折って終わりじゃん。まあこれも、どんでん返しの後付けだから仕方ない。
最後に、生霊(生身の人間)「だからこそ」の演出がなかったのも残念だ。憑依された人間が襲い掛かって来るというのも使いようはあった筈だ。悪魔祓いジャンルのように自傷するだとか、『マトリックス』のように複数/次々と乗り移るだとか。映像的には幽霊ジャンルと何ら変わることがない。
③映画として無粋
始めに言おう。これはTBS出資のテレビ屋映画だ。私のようにニチャった映画オタクではなく、宣伝に釣られるライト層をターゲットにしたデートムービーである。それにしたって、悪い意味で「ドラマ染みて」いる。
子役のガキや芸人タレントの演技は言うに及ばず、登場人物は全員心で思ったことを台詞に吐きだす。微妙な心理表現はなく常に全力の喜怒哀楽を表情に現す。過去に起きた因縁を示す際は、ご丁寧に回想をさし挟む。…今作は何と回想シーンが2回!合計30分あります!正気か!?
演出不足ゆえに、唐突に見える展開もままある。霊能コンビが死ぬシーン・親友がキレるシーンでは、承前するための「怪異の予兆」演出がない。突然幽霊さんがエントリーして狂い死に散らかすため、やたらスピード感がある(憑依能力も突然披露されるため、唐突感が加速する)。
また、終盤アクションの起点となる斧/境内/線路/灯油などのアイテム・場所も、初登場していきなり活躍する。こういうのはさぁ…アリアスターやジョーダンピールみたく序盤でこそっと出すからこそ再帰表現が粋になるワケじゃない?『女優霊』なり『事故物件 怖い間取り』なり、中田監督も過去作ではそれなりに出来ていた筈なのに…。
という訳でネチネチ酷評してきたが、褒められる点もある。それは「話は分かる」ところだ。
令和のJホラー界隈は清水監督・中田監督の二人勝ち(というかもう誰も居ない)の状況だが、二人の作品は対照的だ。清水作品は恐怖演出は上手いが話は支離滅裂で、「怖いが話は分からない」。一方の中田作品は、「話は分かるが怖くはない」。
ゆえに、中田監督作品はテレビ向きなのだろう。ながら観で丁度いい丁寧な(鈍重な)ストーリーテリングで、心臓に悪い描写もないからライトに楽しめる。デートや家族サービスにも最適!テレビ放映で後からでも稼げる!…ただそんな作品は、劇場鑑賞には向かない。粗筋片手に倍速で観るくらいが、丁度良い。