「メグレシリーズをもっと観たくさせる一作」メグレと若い女の死 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
メグレシリーズをもっと観たくさせる一作
メグレ警視シリーズは、原作の小説は100本以上に上り、映像化作品も数多あるにも関わらず、本作「メグレと若い女の死」が初見となりました。その結果、これまでメグレシリーズを観て来なかったのは、実に迂闊なことだったと後悔するに至りました。
ホームズやポアロ、コロンボに金田一耕助と、古今東西いろんな名探偵や名刑事がいますが、メグレはその中でもダントツの陰キャというのが第一印象。ただ一見素っ気ない感じではあるものの、「取り調べのコツはたくさん話をすること」と言うように、目撃者や容疑者とのコミュニケーションから犯人を割り出していく手法は、巨体の内にメラメラと燃え滾る犯罪解明に対する強い信念を感じさせ、その辺りはコロンボの性格に近いように思いました。典型的な陽キャであるコロンボとは表面的に対照的ですが、追跡劇とか格闘シーン、銃撃戦などが全くない、知的かつ静的なミステリーという点では、結構共通項はあるかなと思いました(ほかの作品を知らないので、的外れなのかも知れないですが)。
また、肥満で健康問題を抱えるという冴えないキャラクターには、個人的に共感しかありませんでした。原作におけるメグレの体格は身長180センチ、体重100キロという巨漢という設定。それに対して本作でメグレを演じたジェラール・ドパルデューも身長180センチということで、体格的にはピッタリのキャスティングでした。ただ階段を登ると息が切れてしまうシーンは、演技じゃなくて素のままだったんじゃないかと思えました。劇中のメグレも医者に禁煙を厳命され、トレードマークのパイプを見ているだけの日々を送っていましたが、ドパルデューご本人も健康のために少しお痩せになった方がいいのではないかと思います(大きなお世話ですが)。
肝心の内容ですが、パリに憧れて田舎から出てきた若い女性・ルイーズ(クララ・アントゥーン)の殺人事件をメグレが解決するというものでした。1950年代のくすんだ感じのパリの風景が、実に味があり、臨場感満載でした。前述のように、メグレの捜査は非常に静的ですが、理詰めで進められており、その辺は納得感がありました。ただ、被害者と同じように田舎からパリに出てきた若い女性・ベティ(ジャド・ラベスト) を囮に使って捜査した手法は、かなり微妙に思われました。ベティは別に捜査員ではないし、リスクしかないのに囮に使うのはどうかと思いましたが、メグレとベティとの間に不思議な信頼関係のようなものが感じられたので、ギリギリ許容範囲内かなというところでした。まあ失敗したら(少なくとも現代だったら)大問題だったでしょうけど。
そんな訳で、個人的にメグレシリーズ初見となる本作でしたが、もっと別の作品を観たくなりました。いくつか観た上で、メグレシリーズに対する総合的な評価をすべきなのでしょうが、とりあえず本作に限って言えば、推理劇としては面白かったし、パリの街の雰囲気も趣深いものであり、その辺りは十分に楽しむことが出来ました。ただやはり囮捜査は100%合点が行くというものではなかったので、評価は★4としたいと思います。