劇場公開日 2023年11月3日

「昭和ゴジラ第一作を斬新オマージュした令和ゴジラ映画の戦争と人間」ゴジラ-1.0 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0昭和ゴジラ第一作を斬新オマージュした令和ゴジラ映画の戦争と人間

2023年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

興奮

日本の特撮映画の金字塔「ゴジラ」の生誕70周年を記念した、大作の謳い文句から予想した娯楽映画ではなかった。幼い頃に夢中になった初期の子供向け怪獣映画や、ハリウッド映画に何度もリメイクされた派手な特撮娯楽大作とは制作のコンセプトが違って、大人が観るべき内容に驚きつつも映画の出来としてはスッキリした印象を持った。それは太平洋戦争における日本軍の戦い方の反省と、敗戦後の国防の在り方、そして唯一の被爆国としての立場など、ゴジラ第一作のメッセージに呼応する脚本の地味で確信的で分かり易いまとめ方に、作者山崎貴の力量を見たからである。先ず評価すべきは、この敗戦直後の時代設定から導き出される、ゴジラに日本人がどう戦うのか、戦わざるを得ないのかを、生き残った元特攻隊員敷島浩一の苦悩を主体に描いた脚本の独創性であろう。

ただし終戦の1945年から47年を背景にする時代設定は、第五福竜丸がビキニ環礁の水爆実験で被爆した1954年に制作した第一作「ゴジラ」のテーマの一つである反核メッセージを考えると、矛盾している。しかし、既に広島と長崎に原爆を投下された日本人にとって、その恐怖は切実極まりないものであったはずである。また百田尚樹原作の「永遠の0」と三田紀房原作の「アルキメデスの大戦」を映画化した山崎貴監督の経歴の蓄積が、この映画に結実したと思える内容になっている。廃墟と化した国土、食糧難による飢餓との闘い、生きて行くだけで精一杯の貧しい生活から漸くひと息ついたかどうかの時に、怪獣ゴジラの未知の破壊力と対峙しなくてはいけない。連合軍の実質米国のGHQに統治支配下で軍事力を放棄させられた無防備な状態で、国の命令を受けた民間の組織が集結する。この敗残兵の有志の集まりが、日本人の底力を見せることになる。政府も役人も正式な軍隊も登場しないゴジラ映画の誕生だ。

ゴジラファンとして嬉しかったのは、決戦のクライマックスの映像の迫力だった。ゴジラの不気味な造形と存在感、動きの全て、それに戦艦のVFXの映像美と見応え充分で見事。更に伊福部昭の永遠の名曲を生かした演出も素晴らしい。ここぞという使い方に作者のゴジラ愛が溢れている。役者では主演を務めた神木隆之介が難役の熱演。特攻の生き残りに深い慙愧と仲間を死なせた罪に苦悶する人物像は、時に怒りを表に出し過ぎに見える。内面に隠した演技が理想だが、これは山崎監督の演出法もあるので役者だけの問題では無い。それでもいい演技を見せてくれた。意外と言っては失礼なのだが、この映画で一番のいい味を出していたのは、元技術士官野田健治役の吉岡秀隆だった。豊富な髪をなびかせ、淡々とした話し方と熟年から漂う落ち着きと飄々さ。決死の作戦でも一人一人の命が大切と語る野田の人間性が浮き上がる。欲を言えば、周りの戦後直後の男性の髪形にもっと拘りがあれば良かった。山田祐貴、青木崇高、佐々木蔵之介も其々に役割のキャラクター表現を全うしている。浜辺美波と安藤サクラの女優陣も安定した演技。どちらも日本女性の淑やかさがある。これら大作にしては有名俳優の少なさが顕著であるが、このキャスティングもこの映画の魅力になって、けして大味になっていない。

独創性のある脚本の面白さ、細かく観れば難点も無い訳ではないが、これが山崎監督のオリジナルということで高く評価したい。反核と反戦から、平和を守るために軍備をどう構築しなければならないかの、日本の課題にまで問題提起した真剣さが、怪獣映画ゴジラの恐怖を最大限にスペクタクル化した作品、観て損はない。

Gustav
かせさんさんのコメント
2024年5月15日

ビキニ環礁での核実験自体は、1946年から行われていたようですよ。

かせさん
かばこさんのコメント
2024年4月3日

こんにちは
共感とフォローをありがとうございます。こちらからもフォローさせていただきました。よろしくお願いします。
敷島の苦悩を主体にドラマをきちんと描いた脚本、ゴジラ映画として画期的だったと思います。ヒロシマ・ナガサキの直後に、ゴジラで3度めの被爆という日本のその後を、山崎貴監督で見てみたいです。

かばこ
トミーさんのコメント
2023年11月23日

共感ありがとうございます。
個人的には、沢山作られてきたゴジラ作品の中ではマシな方位の評価です。敗戦直後を舞台としたアイデア、動物的なゴジラの描写は良かった、役者の演技については全く残りませんでした。

トミー
みかずきさんのコメント
2023年11月21日

共感ありがとうございます

終戦直後という時代設定が奏功していました。
戦争に負けて、国民は疲弊している状況でゴジラが出現する。
正に二重苦で、使える武器が殆ど無い状況で、それでもなお、知力と勇気と団結力でゴジラに挑んでいく人々の姿が感動的で、勇気をまらえました。
特に、橘が敷島に放つ”生きろ”という台詞が作品テーマを集約していて胸が熱くなりました。泣けました。

気になる点は、シンゴジラからですが、
シンゴジラでは、ゴジラは未曽有の危機のモデルだと感じました。
本作では、終戦直後の新たなる脅威のモデルだと感じました。
それでも、本作では、水爆実験、放射能、ガイガーカウンターでゴジラらしさはありました。

続編を予感させるラストでしたので、続編では、よりゴジラらしさを強調して欲しいです。怪獣なら何でも良いみたいな作風にならないことを信じています。ゴジラは、日本が生み出した個性的な怪獣ですので。

では、また共感作で。

ー以上ー

みかずき
マサシさんのコメント
2023年11月21日

おはようございます。暫くです。
貴殿がまさかこの映画をご鑑賞なさって、レビューを書き、しかも、共感をいただけるなんて、夢にも思っていませんでした。一読させて頂きました。
共感いたします。
私は強烈なプロパガンダ映画だと思っています。日本人の心のスキマをついたお話で、1960年の安保闘争をリバースさせた日本国独立の宴に見えました。天邪鬼ないい方になりますが、戦争に負けて良かった。と僕は思っています。
少なくとも、第五福竜丸の3回目の被爆、福島の4回目を帳消しにするお話だと物凄く感じました。
今後ともよろしくお願いいたします。ては。

マサシ