「AIで曖昧になる、SFホラーと現実の境界線」M3GAN ミーガン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
AIで曖昧になる、SFホラーと現実の境界線
人形系ホラーにSF要素を足したような作品なのだが、既存のものとは怖さの根源が少し違う。
「近い将来、本当にミーガンに近いものが実現するかも」というリアリティからくる怖さだ。この感覚は、AIの登場前にはなかったものかもしれない。
ミーガンは、呪いや秘術で動いているわけではないし、遠い未来の空想に近い技術の産物というわけでもない。AIの頭脳、chatGPTとスマートスピーカーの技術で何とかなりそうな(笑)会話能力、石黒浩教授のアンドロイドを思わせる表情の変化。テクノロジーの枝葉の部分は、既存の技術を連想させるものばかりだ。
そして、彼女に姪っ子の相手をさせて仕事に注力するジェマや、ミーガンに依存してゆくケイディの姿。これらは、スマホで子供にYouTubeを見せて大人しくさせる親の姿や(これは程度問題で一概によくないとは思わないが)、ネット依存になる子供たちに通じるものがあり、やはりリアリティを感じさせる。
グロいシーンはほぼなく、その手の映像が苦手でも見やすい作り。
(本作は撮影中にPG-13(アメリカでの区分)に変更されているのだが、もともとはR指定作品として製作されていた。アメリカではアンレイテッド版も配信・Blu-ray発売されており、ネットの情報だけでもある程度相違点を知ることができる。ミーガンが引っ張った男の子の耳が千切れる瞬間のアップがある、ミーガンに薬品をかけられた隣人のおばさんの頬が溶ける、エレベーターで襲われたファンキ社CEOに刀が貫通する、スタッフが喉をかき切られる、その時の出血量の多さなど)
ミーガンは不気味の谷感を醸し出しつつも絶妙にかわいくカッコよく、見ていて楽しい。それに加えて、中盤までは彼女がケイディを心身ともに守りつつ不愉快な登場人物ばかりをやっつけていくので、どこか頼もしくさえある。彼女の闘い方は容赦がない(ロボット工学三原則はガン無視)が、根底にはただ純粋な使命感があるだけなのだ。そして、彼女が使命に一途過ぎることこそが恐怖を生む。
急激に進化するテクノロジーと人間の関係性への警鐘を鳴らす物語は、健全な絆とは何か、という問いかけも同時に発している。
姪との向き合い方が分からなかったジェマは、自分は忙しいから、とか試験運用のため、といった理由でミーガンにお守りをさせ、ケイディはミーガンとの関係を何より大事にするようになる。
ただ、「ユーザーを悲しませるもの、傷つけるものはとにかく排除する」ミーガンと、ケイディの関係はいびつだ。対等な友情が築かれた人間同士のような信頼関係があれば、離れていても不安にならない。ところがミーガンを取り上げられたケイディは、ひどく不安定になって暴れた。ミーガンに対し、依存するだけの関係だったからだ。
ミーガンが暴力的に"進化"する中(一昔前なら非科学的ファンタジーとして捉えられただろうこの描写が、AIの学習によるものだと思えてしまうのも、時代だ)、ジェマはようやくケイディと向き合い、目を見て話をする。そこに信頼関係の芽生えがあったから、最後にケイディはジェマを助け、依存から抜け出すことができたのだろう。
期待していたよりミーガンが狂気に走る場面の尺が短かったのと、途中でファンキ社の同僚がミーガンのデータをこそこそコピーしていたのにそこからあまり話がハジケなかったのが肩透かしではあった(何かオチがついてたっけ?見逃した)が、ミーガンのビジュアルとキャラクターで十分楽しめた。
余談:
・ミーガンの映像は、パペット、アニマトロニクス、VFXなどの技術とエイミー・ドナルドの演技で作られている。予告映像でも出てくる、ミーガンが廊下で踊ってバク宙を決めるシーンは、エイミーが演じている。素のエイミーが同じダンスを踊る姿を、Rotten Movieのツイートで見ることができる。
・ロニー・チェン演じるファンキ社のCEOがコンブチャを持ってこい!と叫ぶシーンがあるが、海外のコンブチャは日本の昆布茶とは全く違う健康志向の発酵飲料、いわゆる紅茶キノコを炭酸で割ったものだ(有名なのかな?)。私はこのことを「ナイブズアウト:グラスオニオン」のコンブチャネタで知った。
・ジェマがカウンセラーの目を気にしてケイディに与えたコレクショントイの箱に「非凡遊び」と書いてあったのはちょっと笑った。
まさん、コメントありがとうございます。お返事遅くなってすみません。
なるほど、そうかもしれませんね。こっそりコピーしたって、ネットに繋がった端末の情報はお見通し、という恐ろしさ、なのかもしれません。
データコピー、単純にエレベーターでのシーンの濡れ衣の為だけじゃないですかね?
首を切る時に、コピーしたことをミーガンが知ってたってのも、もうミーガンはコンピューター関係全部網羅してるぞっていうことを視聴者に見せたかったような。