「その手が残っていた」マッチング R41さんの映画レビュー(感想・評価)
その手が残っていた
割と早々に大まかな真相が想像できてしまうことで、ティーンズ向けの作品だと思っていた。
しかし、まんまと引っ掛かってしまった。
古くからある手法 使われなくなって久しいような気がする手法 ホラーやミステリーにありがちな終わり方 これが最後に効くのだ。
まだ、その手が残っていたとは……
しかし、
収監所でトムが影山の母に面会するシーンがある。
すでにほとんどの視聴者がトムがリンカの父とセツコの子であることがわかっている。
しかも彼は介護の場所でセツコのことを「ボクより兄より狂っている」と呟いている。
つまり面会のシーンは、いまだ影山セツコがトムが誰かを知らないでいたということになる。それを知って驚いたのがセツコだが、なぜそのシーンが必要だったのだろう?
おそらくそれは、「誰もトムを知らない」 彼は本当は何者なのか誰も知らないことを強調しているのかなと思った。
彼がそもそもの連続猟奇殺人犯 兄も、母でさえ知らない心の闇 彼が「愛」だという「深海より深いもの」こそ、彼の「心の闇」なのだろう。
さて、
介護士の女と介護される女 この二人がそれぞれの母であることはすぐにわかったものの、赤というモチーフに騙された人も多いだろう。ここが恐怖の場面。
つまりリンカの母は、25年もの間誘拐されていたのだ。
しかも廃人同様になり果てていた。
トムのロジックも素晴らしい。
ブレがなく、突飛もないことを言っているようですべて事実を話しているが、リンカには半分冗談にしか受け取れない。
連続猟奇殺人罪で逮捕された兄の影山の言動にもブレはない。だから殺したのはすべてリンカの愛した人や愛する人だけだ。殺し方を見れば、以前起きた猟奇事件と死体の置き方に違いがある。ダイニングと食事のある場所 VS ベッドOR突き落とし
また、
介護士の女 影山セツコ
最初の方で彼女がリンカの母に手紙を渡すシーンがある。これがあるから騙されるのだが、セツコは25年間かけ、リンカの母を影山セツコだと思わせ続けてきたのだろう。なんてことないシーンだが、最後に気づいて振り返ればとてつもない恐怖を感じる。
しかし実際セツコは誤ってトムを刺した瞬間、その血を見て目の先にあった聖母子像に目が留まる。このシーンは、「母が息子を刺してしまった」というセツコの直感を表現したのだろう。
この作品でセツコのほかに明らかになっているのが影山兄がしたこと。
では、
トムの異常さはどこにあるのだろう?
仕事にしているのが、死体のあった現場の特殊クリーニング おそらく彼の好きな場所なのだろう。ある現場では発見した指を長靴の中に隠している。これはおそらく遺体に対する愛着心があるのだろう。彼は純粋に痛々しい遺体が好きなのだ。
ダイニングテーブルの食事と刻まれた2つの遺体 そこにあるのは幸せと地獄 その融合
それこそが彼の求めている世界であり、相反する二つの融合がなければ喜びを得られないのだろう。
トムは兄にも自分の存在を教えてはいない。兄との対峙も兄はトムが何者かを知らない。トムは、リンカの究極のストーカー そして純粋な異常者。
彼はまた様々なことを口にしている。コインロッカー 不運 運命 ストーカー ピースフルなファン……
しかし彼の言葉の中に猟奇連続殺人事件の理由は見つからない。それは彼の仕事の中と事件現場に秘められている。
この身を潜めながら完璧に活動を続けている本物の異常者が「トム」だろう。
この最後まで隠れ、リンカの傍に居続ける恐怖がこの作品の最大の見どころ。
だからトムの真の心の闇は「深海より深く」隠されている。
ティーンズが見ても面白いし、年寄りが見ても面白い。実に秀逸なプロット。
こんにちは。
丁寧な返信ありがとうございます。
私は表面だけを読む感情型なのでR41さんの深く読み進めるコメントはとても楽しく分かりやすいので、モヤモヤするとすぐR1さんのレビューに飛んでしまいますw
こちらこそよろしくお願いします。