「バケモノ?」零落 R41さんの映画レビュー(感想・評価)
バケモノ?
中々ディープな作品だった。
抑揚のない展開と主人公深沢の人間性
そもそもこの物語の「問題」が何かわかりにくい。
しかし斎藤工さんと趣里ちゃん、MEGUMIさんらの演技で物語に引き込まれたのは確かだ。
さて、
8年もの連載が終了したあと描けなくなった深沢
それまで描き続けてこられたのは、大学時代に出会った後輩との付き合いと、突然消えた彼女のことが尾を引き、それをモチーフにしていたからだと思った。
しかし彼が描けなくなったのは全く別の理由だった。
それをこの物語によって描いている。
人から認めてもらえないこと。
自分がこの世界で一番だと考えていること。
この両者の乖離によって、深沢の手が止まったのだろうか。
意欲を失ったのだ。
まだ売れる前、夢中で書いていた学生時代
のめり込んでいた時 おそらく人生でこれほど意欲的に何かに取り組んだことなどなかった。
自分でも自分が神がかっていると思っていたのだろう。
それはもう無敵状態で、その作品を見せられた彼女は、深沢の内部を見てしまった。
彼女への対応の仕方と作品を鑑みれば、深沢がどんな人物なのかよく理解した。
バケモノ
そのバケモノである自分自身が最強で、それ以外の腑抜けた自分は人間以下だと思っているのだろう。
腑抜けた人間以下でいることは、彼にとっては当然面白くないことだ。
しかし、バケモノになれば無敵になれる。
深沢のことを最初に見抜いた彼女は猫顔だった。
だから彼は「今でも猫顔の人に会うと緊張してしまう」
妻のぞみも猫顔だが、猫にも種類があるように、のぞみは深沢のことを何もわかってない。
これが彼を苛立たせるのだろう。
しかしわかれば去るしかない。
居れば人間以下として扱われる。
ちふゆは深沢の心を見抜いたのだろう。
それはきっとラインで彼の正体を掴み、漫画を読んで、これ以上会うべきではないと、大学時代の彼女と同じ選択をした。
それは深沢にとって2度目の経験だった。
彼の傍にいてはいけない。
深沢が漫画にのめり込めばそれだけバケモノと化してゆく。
スタッフも周囲もボロボロにされてしまう。
しかし、
物語は深沢が何故か描けなくなってしまったことと、それが理由で妻に当たり散らした挙句別居し、ゲームセンターに通い、デリヘルに通う姿を通して、彼が「零落」していく様を描いている。
深沢の闇
バケモノ性
自分に夢中で他人をないがしろにする。
世界中で漫画家が一番偉いと思っている。
それをわかっていながら前に進んでいく。
このあたりは漫画家あるあるなのかもしれない。
でも私の頭の中には「?」が残ってしまった。
この深沢のバケモノ的人間性にインパクトがなく、共感はできないものの、深沢という人物を受け入れることができそうで、結果的には感情に抑揚が生まれなかったというのが正直な感想だ。
スタッフは誰も彼の異常性を感じていないように見えた。
むしろ無視しているかのようだった。
唯一それを言葉にしたのがトミタだったが、深沢が本当にバケモノであるならば、彼女は自分が描いた作品を彼に見せるだろうか?
新作のサイン会でクビにしたスタッフは何故列に並んでいたのだろう?
これらのことは彼のバケモノ性を感じさせない。
自己中心的だったり利己的だったりするのは異常ではない。
深沢のバケモノ性は、この作品から感じ取ることはできなかった。