ジャマル・カショギ殺害事件 真犯人は逮捕されない : 映画評論・批評

2022年12月6日更新

アラブ版「新聞記者」の趣も。ベゾスもやられたサイバー攻撃

サウジアラビア人のジャーナリスト、ジャマル・カショギが、2018年にトルコのサウジアラビア領事館で殺害された事件をご記憶の方も多いと思います。「大使館(≒領事館)で殺人事件なんてあり得ない」「サウジアラビアの王族に処刑されたんだ」など、世界中でセンセーショナルに報道されました。

また、この事件の数カ月後、アマゾンのCEO(当時)であるジェフ・ベゾスが不倫していた事実をアメリカのタブロイド紙が暴露し、ベゾス夫妻が離婚に到ったという案件がありました。これまた記憶に新しい出来事です。

全然趣の違う2つの案件ですが、実は、これらが裏側で繋がっていたという驚きの事実が、この映画で描かれています。私はベゾスのくだりを見ていて、思わず「ウソだろ!」って声を出してしまったほど。

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映画の本筋はあくまでカショギ殺害の件です。もちろん、これはこれで非常に衝撃的かつ陰惨です。実行部隊がどんな規模で、どんな準備をして、どんな偽装工作を行った上で犯行に到ったか、領事館に残されていた音声記録をもとに暴かれていきます。加えて、自国内の事件なのに捜査ができないトルコ当局の証言や映像なども引用されています。「これ、サウジアラビアとトルコの間で外交問題にならないの?」ってレベルまで踏み込んで描かれています。そして、カショギ殺害を命令した真の犯人が、絶対に逮捕されないという不都合な真実も。さらに、この件をめぐるトランプ大統領(当時)の自分勝手な言動も。

でもしかし、個人的にはベゾスが喰らった2次災害の方が衝撃的でした。ベゾスのスマホは、サウジアラビアの工作によって、スパイウェアに乗っ取られていたのです(ベゾスの不倫が発覚したプロセスについては諸説あります)。

これは、自分のスマホ(=あなたのスマホ)にも、簡単に起こりうる事象です。そこが衝撃的。もしかしたら、すでに自分のスマホにスパイウェアが常駐していて、内容がダダ漏れになっているんじゃないか?という危惧を抱かずにいられない。

映画を見終わって、自分のスマホをウイルススキャンしたくなる、そんな衝動に駆られる映画。ベゾスのスマホは、どんな手口で乗っ取られたのでしょう……そこも含めて必見です。

やや脇道にそれましたが、本筋に戻ってまとめましょう。ジャマル・カショギの事件は、現代のネット社会における言論の自由の尊さと、それを楯に反体制に抗う人たちを脅かす甚大なリスクを浮き彫りにしました。そう、リスクは常にスマホの中にある。

スマホを落としただけなのに」ミーツ「新聞記者」。そのグローバルでシリアスなバージョンと言えば、分かりやすいかも知れません。

駒井尚文

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