TOCKA タスカーのレビュー・感想・評価
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「死ぬ理由はある」
希死念慮とずっと二人三脚で生きてきた身とすると、なんで誰かに殺して貰わないといけないのかと訝しんだのだが、確かに保険金では自殺は該当外になってしまうという、当たり前の前提を忘れてしまった恥ずかしさに、今作品のレビューなど埋められるのかと自信が無い・・・
3人の登場人物がほぼ群像劇的に描かれる構成である 冒頭は女のパート 但し一体どこに向かっているのか分らないフェリーの甲板で、観客さえも寄る辺のない不穏に連れて行かれる そして目を惹くのはカナダグース 赤の衣装 ハイブランド着用と言うことはどこかで金が絡む話と読んだのだが、やはり正解であった
そして、初老の長髪の男 長髪の意味はあまり無かったようだが、兎に角死の匂いしかしない佇まいである
最後は若い男 傍若無人で、社会性が乏しく、粗野だがしかし妹を気遣う優しさも兼ね備える 多分、社会に恨みしかない気持を頂き続けているのだろう
そんな3人が運命と偶然という目に見えない力で邂逅する まぁそこまではロマンティックではないのだがw
初老の男を起点とした『嘱託殺人』のイグニションが回り始める 中盤にビックリする妻の死体の件はストーリーのエッセンスとして充分スパイスが利いている それだけでなく細かいネタもきちんと推進に華を添えていて、スリリングさが加速度的に進むのだが、成功したかに見えた計画も、結局は死に切れなかった事で未遂に終わる あぁこれが制作陣のテーマなのかなと思いきや、いきなり事故を装うトラックへの飛び込みで、あっさり完遂されるという意外性も興味深い とにかくどこに連れて行かれるのかわからない構図なのである 人が死ぬという現実を受け止められない二人は取り敢ずセックスをするのだが途中男の嘔吐で中途半端になる件はこれも変なリアリティがあって面白い
とはいえ、ここから実は長い後日談を用意したことは物語の推進力を落としてしまった残念なベクトルなのである ネタとすれば保険金から支払われる事で約束されていた筈の借用書も、確かに支払う義務は無い バカ田大学法学部卒なのにそれも分らないのかとお叱りを受けそうだが(苦笑 取りっぱぐれた2人だが、未遂に終わった翌日の娘へのプレゼントである白いスケート靴(作品序盤のスケート場での父親パートのオチ)で下手なりに一生懸命滑る姿にあの二人は何を思ったのか 他人が何と言おうと、あの初老の男の願いを認める あの想いを肯定する 間違っているか正しいかなど、ここまで繋がった濃厚な共有する時間は、奇跡とも言える轢いたトラック運転手のドラッグ常習という理由でのザル的捜査でスンナリ保険金が下り、二人はお咎め無しという幸運を呼び起こすプレゼントだったのだろう でも丁寧さが災いしたのか、そこがクライマックス後のカタルシスに上手く辿り着けなかったというのが勿体ないと感じたのである
決して倫理的には間違った選択であろう世界観に、それでも一人の人間がそれを唯一の活路だと思うのならばそれを認めるという思考も又真理で有って欲しいと願う自分である エンドロール前に映像は消え、唯々黒いスクリーンに女が滑る、氷上とブレードのアンサンブル 深いタスカー(苦諦(くたい))を表現した最良の演出であろう
良い意味で裏切られたすごい映画を僕は観た
不思議な吸引力のある映画だった。
主人公・章二は、私を殺してくれませんか、声をかけていく。
自殺サイトに協力者を求めて、早紀と出会う。
この設定にのれなかったが、章二が計画通りに死ねなかったあたりから、転調し、俄然面白くなり、一気に物語の中へと引きずりこまれた。
冴えないおじさん・章二役の金子清文が愛おしくなり、運命を受け止めていく早紀役の菜葉菜の圧巻の演技に魅せられた。
究極のマイナス要素が、いつの間にか、登場人物だけでなく、作品の世界観だけでなく、観客の気持ちさえも、肯定的に受け止めている感覚は不思議だった。
死そのものをこんなにも切なくも肯定的に体感出来る映像作品は他にあるのだろうか。
監督の力、役者の力、スタッフの力が結集しないと、この世界観は作れないと思う。
百聞は一見に如かず。是非映画館で観て頂きたい。
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