「これはさ、一緒に渡っていいやつ?」生きててごめんなさい 唐揚げさんの映画レビュー(感想・評価)
これはさ、一緒に渡っていいやつ?
出版社で働く修一は莉奈と出会い、アパートの一室で同棲をしていた。
修一は作家の夢を抱きながらも日々編集の仕事に追われている。
一方の莉奈は周りと上手く付き合えず、仕事もせずにダラダラと家で過ごすことが多かった。
ある日、ひょんなことから莉奈は修一の担当するコメンテーター西川の目に留まり、修一の出版社で働くことになる。
周りからちやほやされ成功の階段を登り始める莉奈に対して、修一はいつしか心ない言葉を浴びせるようになり……
蟹が飛ぶ。
あんなに心を掴まれるOPは久しぶりだ。
ラストとオーバーラップする踏み切りでのタイトルバックも素敵。
描かれる日常が美しければ美しいほど辛い現実が胸を刺す。
「誰かのために生きるな、自分のために生きろ」
この映画ではそれを伝えたかったように思う。
そう、これは生き方についての物語。
定職につかずアルバイトも長続きしない、両親からも見放され連絡を取れる友人もいない莉奈。
修一無しでは生きていけない莉奈だったが、しっかり自分を貫き通したていた。
社会性がないことを否定され続けながらも、好きなものは好き、嫌なことは嫌と自分をしっかり生きてきた。
その面倒臭いほどの純粋さを武器に次第に社会へ馴染んでいく。
一方で修一は自分の意思を無にして仕事に命を懸けている。
一見するとエリートサラリーマンといった感じだが、彼は仕事のために生きていた。
昔から憧れていた先生に読んでもらえると意気込み、小説の新人賞にエントリーするも案の定失敗に終わる。
自分の好きなことも削り、仕事のために生きていた彼は社会的には生きているように見えて人間としては死んでいた。
行き場を失った感情は愛と混ざり合い、そんなつもりじゃないのに悪口を吐いて目の前の人を追い詰めてしまう。
「俺は莉奈に憧れてたのかもしれない」
同じ職場で働いているにもかかわらず、2人でこうも違ったのは決してパワハラ上司やセクハラコメンテーターのせいではないと思う。
同じ世界でもどうやって見るのかで、視点も立場も気持ちも全く変わってくる。
現代人にはそれが欠けているのかもしれない。
この映画を語る上で外せないのがヒロインについて。
この多くの人から嫌われそうな役柄をヒロインに据えたのがなかなかの革命。
はじめは「あー、こういう子ね」とあまり好きになれなかったが、彼女の内面を知れば知るほど興味が湧いてくる。
人間上部だけでは分からない。
こういうヒロインこそ、ヒロインとして最適なのかもしれない。
そして、それを演じきった穂志もえかが素晴らしい。
最近好きな女優は?と聞かれたら彼女の名前が出てくると思う。
それから黒羽麻璃央の表情の良いこと。
安井さんのイヤミな役もハマっていた。
ラスト。
修一は踏切を渡ったのだろうか。
生きてればそれでいいじゃないですか。
仕事と恋愛の残酷さがキツくて当分は観たくないけれど、すごく好き。