あしたの少女のレビュー・感想・評価
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【名ばかりの"現場実習"にダンスの夢を持っていた女子高生が呑み込まれる様を描いた鑑賞していてキツイ作品。後半、ペ・ドゥナ演じる女性刑事が韓国社会の歪みを眼光鋭く暴いて行く姿は心に沁みます。】
◼️教育庁からの補助金目当てに、企業への実習生派遣を実習現場も確認せずに続ける職業系高校と、安価な労働力として受け入れるブラック企業。
今作品は、そんな韓国の体質を暴き出し、企業側の責務を強化する改正法案を韓国国会で通過させた意義ある作品である。
この改正法案は通称「次のソヒ防止法」とも呼ばれているそうである。
今作の原題は「NEXT SOHEE」である。
又、今作品はフライヤーにも記載されている通り2017年、全州市で起きた女子高生の自殺を題材にしている作品でもある。
◆感想
・前半は鑑賞していてかなり精神的にキツイ。ソヒが送り込まれたコールセンターでは、顧客から罵声を浴びながら、解約を阻止する仕事が行われている。
- 信頼していたチーム長が、会社の方針に疑義を抱き、疲れ果て自殺する。会社は、彼の葬儀に行く事を社員に禁ずるが、ソヒだけが葬儀に出る。冒頭の焼き肉屋のシーンを観ても分かるが、ソヒは正義感が強いのである。故に会社側から目を付けられ、精神的に追い詰められるのである。-
・ソヒが自殺した後に登場する女性刑事、オ・ユジンを演じたペ・ドゥナが、鋭い眼光で、コールセンターの愚かしき社員達や、学校の担任を鋭く追及していく姿は見応えがある。
- 彼女の怒りの鋭い眼光から目を逸らす会社側の愚かしき社員達。-
・後半では、背景に韓国の貧富の差や、日本より、遥かに厳しい学歴社会の実態がある事も描かれている。
・ペ・ドゥナの怒りを抑制した演技も見応えがある。ソヒのスマホが自殺した湖から発見され、残されていたソヒが楽しそうにダンスする姿を見て、涙を流す姿。
<今作品により、企業側の責務を強化する法案が韓国国会を通過した事は、上記した通りだが、数年前に厚生労働省が"技能実習制度"を導入しながら、結局、アジアの若い外国人を安価な労働力として使い回している日本(技能実習制度の内容が、ダッチロールの如く二転三転している事は周知の事実である。)は、大丈夫なのだろうか。と思ってしまった作品でもある。>
根深い社会問題
守られなかった少女、責任を問われない大人たち
つらさを聞き理解しようとする側でいたい
仕事のやりがいってなんだろうと思うことがある。高い給料や、社会への貢献度、仕事そのものの面白さの人もいるし、好きなことを仕事にしていることでやりがいを持つ人もいる。精神的にしんどくても人の役に立っていたり、好きなことならがんばれるのかもしれない。でも、顧客から罵倒され、会社や上司からは厳しいノルマを課され、でも薄給だったりしたらやってられない。
本作に登場するソヒは、実習としてインターネット通信のコールセンターで働くことになるが、徐々にこの職場の過酷な環境に絶えられなくなっていく。客や上司から罵倒され、安月給で使われるのだから当然だ。一番の問題だと感じたのは、ソヒのつらさを聞いてくれる大人が誰もいなかったということ。実の両親でさえ。後半の捜査パートになってから、彼女の周りの大人たちの口から出てくる言葉の数々がとても醜悪だった。会社の上司も学校の先生も酷かったが、個人的には父親の態度に鼻白んでしまった。お前はソヒの何を聞いてあげられたんだ?そもそも聞こうとしていたのか?と。身を守るためにあんな醜悪な言葉を述べる側には行きたくない。つらさを聞き、理解しようとする側でいたいものだ。
さて、後半はユジン刑事がソヒの死の真相を探ろうとする話に転換する。しかし彼女のしている捜査は警察の範疇を軽く超えていて、苦情が来たり変なニュースになるのもわかる。とても感情的だったし。ダンス仲間として顔見知りなだけのユジン刑事だけが彼女の思いを理解しようとするのは正義感だけではないはずだが、そのへんの背景がハッキリしないのは残念だった。でも、周りの大人たちに比べるとユジン刑事の行動だけがこの映画の救いだ。正直何も解決したとは言えない。実際にあったことを題材にしているからこそ、誰かを悪者に仕立て上げるのは難しいのだろう。
そもそも、この事件では誰が一番悪いんだ?をテーマに喧々諤々の議論ができそうなくらいに重たい問題だ。それを重たいテーマをきちんと伝えつつ、感動の物語として仕上げてくるのとてもうまかった。
働いて金を稼ぐという現実
何も…
何かが解決すると期待して観たので、そうではない展開、そしてあまりに無責任な大人と彼らをそうさせているシステムに暗い気持ちになった。
実習先のコールセンターでのクレーム対応のシーンは、仕事と重なり見ていて辛かった。最初こそ苦戦していたソヒがだんだんと慣れて顧客対応がうまくなっていく姿は単純に「良かったね」とは言えない。。労働市場によく言えば対応し、悪く言えば飲み込まれていくさまが描かれているようで…。
責任ある立場にいる大人たちが誰もソヒの状況を理解しておらず、知らないままであった。ソヒの親でさえ、彼女が自殺未遂をしていたこと、ダンスに打ち込んでいたことを知らずにいた。そんな中、ペ・ドゥナ演じるユジン刑事はソヒとはダンス教室で一度会った程度だが、誰よりもソヒを理解し感じようとしていたように見える。もっとソヒとの繋がりや関係があることを少し期待していたのだけど、2人の接点があまりないところが逆にミソというか。
過酷な労働に飲み込まれていく若者たち、苦しさを抱えながらもそれがバレないように必死に隠し、何事もないように生きる若者たち。ユジン刑事が一人ひとりに言葉数少なく、だけどもあたたかく声をかける姿に、彼らはどれだけ安心しただろうか。
何かが解決するわけではないけど、ユジン刑事を通してこの映画のメッセージはちゃんと伝わってくる。
前半と後半で物語の視点が変わる
「あれ?これドキュメンタリーだっけ?」と錯覚するようなファーストシーンから、心情を煽る音楽を極力抑えた演出で、じっくりと主人公にフォーカスしていきます。
センターの成績が…
みんなのノルマが…
学校の信用が…
あたかも自分が周りに迷惑をかけている異分子のような扱いを受け、かと言って
黙ってお金の為と割り切ることすら出来ない、八方塞がりの状況。
でも、そんな同調圧力を仕掛けてくる奴らは、たいがい自分の保身の為だったりする。結局は汚い大人たちによる搾取に他ならない。
後半は思わぬ社会の闇へと、芋づる式に繋がっていきます。
本来ならセーフティーネットになる筈の仕組みが機能していない現実が暴かれていき、これでもかという負の連鎖に、どこか一つでもストッパーになれていたら…と思わずにはいられませんでした。
そして、刑事が介入することに批判的な組織も闇が深いです。。。
最後の砦まで腐ってることに戦慄しました。
私にとってペ・ドゥナちゃんは永遠の少女なんですよね。
刑事役もすっかり板についた女優さんに対して失礼かもしれませんが、どうにも当時の少女が見え隠れする。
でも、やっぱりそこが彼女の強みというか魅力だと思うんですよね。
くたびれた大人になってしまってはいても、心の内にかつての少女を宿している。
ユジン刑事がソヒの思いを辿るように、同じ足跡を辿るシーンが印象的です。
かつて同じ光に誘われた側の人間であることが伝わる演出が素晴らしい。
ラストは涙なくして見られませんでした。
“ヒヤリハット”という言葉をご存知の方も多いかと思いますが、ついうっかりしていて「ヒヤリ」となったり、ミスに気づいて「ハッ」としたりするイメージで、事件や事故の一歩手前だった状況を表しています。
「1件の重大事故の背後には29件の軽微な事故があり、さらにその背後には300件の異常が存在する」と言われておりまして、“異常”にあたるのがヒヤリハットなのですが、これを「事故にならずに良かったね。」で終わらせず、きちんと分析して再発防止に努めることが本当の事故の防止につながるという考え方です。
前置きが長くなりましたが、つまりソヒの後ろには300人の見えないソヒがいるのだと感じました。
みんな何かしら心に歪みを抱えている。
ソヒの友達だってソヒを心配していたけれど、いつソヒ側になってもおかしくない。
みんな自分のことで精一杯で、両親ですらソヒと向き合う余裕がない。
少しずつ悪いタイミングが合ってしまって、最悪のことが起きてしまった。
既に事故は起きていたのだから、絶対に「無事で良かった」で終わらせてはいけなかったのだ。
実際にあった事件が基なので『トガニ』を思い出しますが、社会派だけどきっちりエンタメなところが本当にすごい。
『あしたの少女』も社会派ですが、刑事モノとしても楽しめます!
タイトルなし(ネタバレ)
前半はコールセンターで働く主人公が色んなしがらみに潰されて死を選ぶまで、後半はペドゥナ演じる刑事が事の真相を追求していく過程が描かれる。前半は主人公の心の機微がとても繊細に描かれて、静かな画や主人公の佇まいに惹き込まれた。が、後半、引きの視点で社会構造の闇が色んな角度から暴かれていく作りなのだが、あれだけエモーショナルに引き込む作りだった前半に比べ、後半はペドゥナがあまり主人公と接点がない役どころだからなのか、感情のつながりがそこまで感じられず、前半であれだけ盛り上がったテンションが徐々に引いていくのを感じてしまった。
問題提起としてはとても大きい意義を感じるが、ただただやるせなさで終わっているのでカタルシスもなく、惜しい仕上がり。問題が浮き彫りになり、どうしようもない私たち。で終わってしまっている。刑事視点より、友人視点で展開してもよかったかも知れないと個人的には思った。
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