劇場公開日 2023年9月1日

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「素晴らしかったです^_^」こんにちは、母さん penさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5素晴らしかったです^_^

2023年9月15日
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鑑賞方法:映画館

御年92歳の山田洋次監督。最初に拝見したのが子どもの時見た半世紀前の作品「家族」でしたが、その後も一貫して市井に生きる人々の泣き笑いを濃密に描かれていたように思います。しかし描き方は多分その時々の最新の技術やテーマを貪欲に取り入れていて、作品に新しいいのちを吹き込んでいるように思いました。

例えば、昭夫が働く丸の内の巨大なビルを捉えるシーン。無数のしかし整然と並ぶひとつひとつの窓は、高密度映像で映写されていて、手でひとつひとつ触れられるような感触でした。巨大な組織の中で組織の論理として動かざるを得ない昭夫の様子を象徴する映像で見事でした。
また、夕方暗くなってきた部屋で、電気も付けずに福江がお酒を飲んでいるシーン。畳を僅かに照らすばら色の光や夕陽に照らされて燃えるように輝く庭の菊の黄色が、歴史ある下町の温かな雰囲気をよく象徴し、それが福江の心を静かに包んでいるようで、とても美しいと思いました。あの色は10年前には出せなかったのではと思います。

ちなみに、永遠の清純派が高齢にして恋をする役を演じる。そんなのあり?と思ってしまいますが、でも御年78歳にしてはあまりに美しい吉永小百合という大女優を前にすると「すみません」と頭を垂れるしかありません。

「貞女二夫を見ること果たして敗徳ならば、貞男(ていだん)もまた二婦を見るべからず。彼に厳にして此に寛なり、偏頗(へんぱ)の甚だしきものと云うべし。」(「福翁百話」)。福沢諭吉が100年以上前に女性の再婚について触れたエッセイの一部です。山田洋次監督が「未亡人」という言葉が大嫌いと仰っているのを、キネマ旬報の特集で読みましたが、多分同じ趣旨だと思いました。「やもめ」は男女とも使いますが、「未だ亡くなってない人」は男性には使いませんからね。希有の存在である吉永小百合という奇跡のような大女優を得て表現したかったのは、男性も女性も年齢にかかわらず、自分の感情に嘘をついて生きるのはやめ人間らしく生きようよということだったのかもしれないと思いました。これはジェンダーや多様性という今日的なテーマでもあるよなと思った次第です。

何はともあれ、素晴らしい作品でした。

pen