劇場公開日 2023年9月1日

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「昭和のテイストだけでなく、時代を越えた「親子の情」を味わうことができる」こんにちは、母さん tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5昭和のテイストだけでなく、時代を越えた「親子の情」を味わうことができる

2023年9月1日
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台詞回し、カメラアングル、カット割りと、何から何まで「山田洋次」印の映画で、その健在ぶりに驚かされるし、それが嬉しくもある。
実年齢と相応の役柄を演じる等身大の吉永小百合も良いが、山田洋次らしい軽妙なコメディにピタリとはまっている大泉洋も楽しませてくれる。
何よりも、劇中の台詞にもあるように「肩の力を抜いて、朗らかに」映画を撮っていることが伝わってくるのが心地よい。
その一方で、リストラをする側とされる側の葛藤があったり、年老いた母親の恋を素直に喜べなかったりと、良くも悪くも「昭和」の世相や価値観がチラホラして、今の時代とのミスマッチ感は否めない。
誰もが気軽に上がり込んで、集会所のようになっている母親の自宅兼店舗は、会社や家庭での人間関係に疲れた息子や孫娘のシェルターにもなっているが、そうした人情味に溢れた下町の風情も、こんな場所があったらいいなと思う反面、残念ながら、ファンタジーにしか感じられない。
大企業の人事とホームレスの支援に優劣はないと言うのであれば、ホームレスにも、競争社会から脱落してしまったそれなりの理由があるということを描くべきなのに、代わりに東京大空襲のエピソードが語られることにも、違和感を覚えざるを得ない。
ただ、そうは言っても、仕事を失い、妻とも別れた息子と、失恋した母親が、明るく、幸せそうに見えるのは、切っても切れない親子の絆と、そこから生まれる暖かさと居心地の良さを感じ取ることができるからだろう。
これは、単なる「時代遅れの映画」ではなく、どんな時代でも変わることのない、普遍的な「親子の情」を再認識できる映画でもあるのである。

tomato