「愛のかげり」ファイブ・デビルズ kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
愛のかげり
『フットルース』で使われた「Hold Out for a Hero(ヒーロー)」が日本では最も有名なボニー・タイラーの名曲「Total Eclipse of the Heart(愛のかげり:英米NO.1となった))」が聴ける。ドラマチックなバラード曲で、一度は聴いたことがあるはずです。この曲がなければ評価はちょっと下がったかも。
8歳の少女ヴィッキーは嗅覚が優れ、愛するママンの匂いや、栗、松ぼっくりを小瓶に入れ集めていた。水泳教室のコーチである母ジョアンナもびっくりするほどの嗅覚。仕事の後には湖でヴィッキーにワセリンを塗ってもらい寒中水泳するのが日常。そんなある日、消防士である夫ジミーの妹ジュリアが10年ぶりにやってきて自宅に泊まることになった。母を取られると感じたヴィッキーだったが、ジュリアの匂いを基本に自ら調合した匂いによって彼女は卒倒し、叔母ジュリアと母ジョアンナの過去へとタイムリープしてしまう(『時をかける少女』ではラベンダーの香り)。しかし、ヴィッキーの姿が見えるのはジュリアだけだった。「誰?この少女」と不気味に思うジュリア・・・
ヴィッキーは学校で「バカ、ブサイク、トイレブラシ」と呼ばれ、いじめられていたが、彼らも小瓶の匂いを嗅いでしまい気絶してしまうほど。児童の母親からも詰られたジョアンナだったが、愛する娘を守るため、蔑む言葉で応酬する勇ましさ。娘への愛と同時に、ジュリアの過去にも問題があったためだが・・・その過去とは・・・といった展開。
お祖父さんもジュリアを「同性愛の放火魔」と言い嫌っていた。また、右目の火傷の痕が痛々しい水泳教室の同僚ナディーヌは元カレのジミーを奪われたとしてジョアンナを詰っていた。火傷が原因でジョアンナに乗り換えたのなら、ジミーも悪い奴やな。そんでもって、彼ら二人は不倫の仲に。
そんなこんなでジュリアの登場により、過去の経緯が徐々に明かされていくストーリーなのだが、面白いのがそれがタイムリープしたヴィッキーの目線によるものだということ。ジョアンナとジュリアは同性愛で結ばれていたが、ジュリアによる体育館放火という事件によって平和が一気に崩されたのだった。村を去ったジュリアは更生して、ナノバイオの研究者になったとか。
ヴィッキーのタイムリープの能力開花。何度も母と叔母の過去を覗き見するが、そこで母を奪われてしまうと危惧して、オシッコとカラスの死骸を煮た液体をジュリアにも嗅がせるのだった。思いがけずジュリアにもリープの能力が備わってしまったのですね。さらに、放火の原因も明かされ、いつも目に見える謎の少女が怖くて、体操演技を終えたジュリアは体育館横のクリスマスツリーに現われた少女を排除したいと思い、思わず火を放ってしまったのだという事実。なんとまぁ、恐ろしや。
面白いのは嗅覚の優秀さの娘ヴィッキーに対し、母ジョアンナと父ジミーはともに喫煙者であるということ。つまり、ヴィッキーの能力は両親に起こり得ることもなく、同宿していたジュリアにだけ伝播したという点だ。ジュリアにタイムリープ能力が伝播したと考えれば、ラストカットで登場する謎の少女がジュリアの幼少期(または将来のジュリアの娘かヴィッキーの娘)であると想像できるのです。ただし、少女の姿になり、過去ではなく未来へ飛んだことになる・・・ややこしい。
LGBTQのテーマ、それに人種の偏見がない様子が素晴らしい(ジミー、ジュリア、ヴィッキーは黒人)し、いじめの問題も深刻さが伝わってくる。言ってみれば社会派SFの愛の物語!そんな面白いストーリーですが、謎も残る。
○彼女たちが体操部から水泳に趣味を変えている点。もしかしたら放火事件が影響か?
○ジミーが消防士になったのもそれが原因か?
○ジミーはなぜジョアンナを選んだのか?
○村の名前ではあるものの、そもそもファイブ・デビルズというタイトルは誰のことを指すのか?ヴィッキー、ジョアンナ、ジュリア、ジミー、ナディーヌそれぞれが悪魔的な行動をしたとか?
なんだかんだで、最も難解なのがラストカットなのですが、将来のヴィッキーの娘という説が多いみたいけど、個人的にはややこしいジュリアの幼少期だと思いたいです(ちょっとだけジュリアの幼少期が出てたので確認したい)。