劇場公開日 2023年2月10日

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「時代はいつも猛スピードで進化します。21世紀の今だけではなく、いつも、です。時代の要求に自分を合わせ続けなければ生きられない。それが人間社会の残酷さだよというのが、この映画の主張なのかも知れません。」バビロン お水汲み当番さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0時代はいつも猛スピードで進化します。21世紀の今だけではなく、いつも、です。時代の要求に自分を合わせ続けなければ生きられない。それが人間社会の残酷さだよというのが、この映画の主張なのかも知れません。

2023年2月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画が出現してからトーキーに進化する、わずかな期間が、この映画の舞台です。その進化の異常な速さを念押すように、映画の中で「西暦年」がこれでもかと強調されます。

当初は、砂漠地帯の、屋根もない、オープンでチープなセットで映画が撮影されていた時代でした。
無声映画だったから、隣のセットから聞こえる声や騒音も、監督の声も、撮影の邪魔にはならなかった。
そこでの撮影で独特の才能を見い出され、一気に「スタア」の一端に名前を連ねるようになったのが、マーゴット・ロビー演じるヒロインです。

しかし、翌年には無声映画はトーキーへと進化し、撮影時の雑音をシャットアウトすることが求められ、本格的なスタジオ撮影に切り替わり、マーゴットが発揮していた才能の数々は封殺されていきます。

多くのスターたちが、自分だけが持っている「輝く才能」によって一瞬のうちにスターダムにのし上がり、しかし時代の変化があまりに急すぎて、映画が求める才能は次々に移り替わり、瞬時に上り詰めたスターはまた瞬時に使い捨てになり、二度と浮上できないという残酷な真実を突きつけるお話でした。
時代の進化に追いつくため、絶えず努力し、常に自分を変化させ続けた、たった一人、謎の中国人だけが生き残り、ほかの全員が一気に消え去ったのです。

時代の変動は残酷すぎる。
時代が激動することに気づくのが始めの第一歩ですが、それはしかし、なまじ成功を掴んだ人間に突きつけられる要求として、残酷すぎる現実なのです。
そういうことに対する、警鐘を鳴らす映画だったのでしょうか。
あるいは、ここまでの感想って、監督の意図を深読みしすぎかも知れませんが。

ストーリーは、凄いです。
ほんとうに凄いの一言。
まったく一瞬先が予想できない、天才の作品だと思います。
ストーリーのジェットコースター状態を車酔いしながら楽しむのが、いちばんの楽しみ方ではないかと思いました。

映画そのものは、映画業界人のツボに、見事にはまるように造られているので(これは駄作「ラ・ラ・ランド」も同じ構造ですが)、アカデミー賞だとか、あっち系の人たちには受けるのだろうと思います。
でも一般人たる私たち、つまり自分でお金を払って映画館に観に行く観客にとっては、どうなんだろうかなと思うのでした。

一般人だろうが誰だろうが、栄光の一瞬はあったでしょ、だからこの映画も刺さるでしょという、映画人の押しつけがましいメッセージに思えてしまうんですよね。

ブラッド・ピットは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でも、まったく同じ役柄(一気に落ち目を迎える映画スター)を演じていましたが、今作と前作の、どちらの演技に、彼自身は満足していたのだろうか、なんて雑念も沸くのでした。

マーゴット・ロビーは謙虚さのかけらもないヒロインで、「まだ一本も映画には出てないけど私はスターなのよ」と威張る設定のお蔭で、感動話に進む方向も摘み取られてしまっていて、これは一体どうするつもりなんかねぇ、と思いながら観ていたのですが、そのなかで考えうる一番安易なストーリーを監督が選んでしまったのが、返す返すも残念でした。

お水汲み当番