「この映画での個人的な驚きとは」正欲 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画での個人的な驚きとは
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
※重要作品なのにレビュー漏れしていて今更ですが‥
この映画『正欲』で個人的な小さくない驚きは以下でした。
映画の中で、検事の寺井啓喜(稲垣吾郎さん)が、息子たちのYouTube動画配信に関して、いわゆる小児性愛者のような人間もいるから気をつけろという場面があるのですが、個人的にもその懸念はもっともだと思われました。
妻の寺井由美(山田真歩さん)は、そんな事より不登校の息子がせっかく生き生きし始めた楽しみのYouTubeの撮影配信を奪うのかと怒っていましたが、個人的には検事の寺井啓喜の懸念の方がもっともだと見ていました。
映画は進み、検事・寺井啓喜の懸念の通り息子のYouTubeのコメント欄に小児性愛者の影を感じることになります。
ところが、この映画は小児性愛者の心情を否定していないのです。
主人公・桐生夏月(新垣結衣さん)は、中学の同級生の結婚披露宴でかつての中学での同級生の佐々木佳道(磯村勇斗さん)と再会します。
主人公・桐生夏月と佐々木佳道とは、水が噴き上がることに対していわゆる性的な欲動を感じる共通点があります。
映画の最終盤で佐々木佳道は、動画コメントで知り合った、同性愛者の大学生・諸橋大也(佐藤寛太さん)と小学校の非常勤講師・矢田部陽平(岩瀬亮さん)と、水フェチの共通点で会うことになります。
そしてその後に小学校の非常勤講師・矢田部陽平が児童買春で逮捕され、佐々木佳道も関係性を疑われ警察に連行されます。
寺井啓喜はこの事件の担当検事となり、主人公・桐生夏月も検事の寺井啓喜から参考人として事情聴取されます。
そしてこの時も(もちろん他者を傷つける児童買春は否定していると思われながらも)内面に持ってしまう小児性愛の感情については、この映画は否定していないのです。
私を含め、恐らく大多数の人々は受け入れられない(内面としての)小児性愛の感情の肯定は、ある種の踏み越えとも感じ、逆にこの映画の重要さを物語っていると思われました。
そんな大多数の人から理解されない性的な欲動を持っている人間は確かに存在すると、主人公・桐生夏月はその存在を否定する検事の寺井啓喜を非難し、この映画は文字通り閉められます。
私個人は、同性愛者や水フェチのような存在までは理解できても、小児性愛の感情まで肯定することはなかなか困難だと思われます。
なぜなら小児性愛の心情は、容易に許されない小児や未成年者の性的虐待にそのままつながると思われるからです。
であるので、個人的には検事・寺井啓喜の懸念に対する立場に近い存在です。
そういう意味では、非常に踏み込みある、小さくない衝撃を内包した映画になっていると思われました。
題材的には重く傑作的な展開ある作品とまでは思われませんでしたが、同性愛者の諸橋大也と男性恐怖症の神戸八重子(東野絢香さん)との大学教室での感銘を受ける場面など、映画的なシーンも数多くあり、見事な秀作になっているとは一方で思われました。