「圧殺される世界」正欲 くまくまさんの映画レビュー(感想・評価)
圧殺される世界
素晴らしい視点で人間を描いた秀作でした。
誰に迷惑をかけるでもない水フェチという性的指向に世界を閉ざされてしまう佐々木(磯村勇斗)と桐生(新垣結衣)。LGBTQは徐々に認知されてきてはいるが、もっともっとマイノリティで、別に人に害を与えないし迷惑だってかけないけれども誰にも言えない指向、そして、言った途端「あり得ない」と全否定されてしまう世界。そんな窒息しそうな2人の状況を非常に良く出来た人物描写、一つ一つのセリフに凝縮させた秀作でした。
息苦しくさせる「普通」とか「マジョリティ」とか「一般常識」を化体させた人物である寺井(稲垣吾郎)と、佐々木・桐生が対峙するクライマックスで吐露される、それぞれの価値観や苦しみ。そして、基準の中で正しく生きてきたと信じる寺井が、桐生の「いなくならない」という言葉を食らったときに、自分自身に目を向けた瞬間の表情。
本当にセリフが素晴らしい。
水フェチは1つのたとえであり、マジョリティがマイノリティを追い込んでいる状況や、多様性と言いつつ、(何にも迷惑かけないものでも)マイノリティの中のマイノリティは圧殺されるということを見事に伝えていました。
そして、ゴローちゃん、ガッキー、磯村君、この3人の演技が素晴らしい!期待以上でした。ゴローちゃんは、SMAPの頃から、シュッとしたハンサムなのに、鼻眼鏡をかけた変な役をやるのとか大好きで、演技好きなんだな、上手だなと思ってましたが、クセつよではない、こういう役もうまいんですね。
ガッキーの無表情とこれという時の目力、磯村君の人生に疲れた諦めた目と喜んでいるときの表情の違い、本当に素晴らしい役者さんです。
佐々木が送検までされることはないというコメントや、ゴローちゃんとガッキーがバッタリ会ってることへのコメントも拝見し、確かにその通りではありますが、その部分は本作では重要ではないと思いました。そこが気になってしまうと、検察官と対峙させるためのご都合主義と思われる方もいるのかもしれません。
細部では、晩御飯がレトルトカレーとか扱いひどいのは、奥さんがひどいのか、あまりに話を聞かなくて愛想尽かされてるのか、夫婦の鶏卵問題を感じました。