劇場公開日 2023年11月10日

「難しい問題をわかりやすく提起」正欲 おじゃるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0難しい問題をわかりやすく提起

2023年11月12日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

怖い

難しい

稲垣吾郎さんと新垣結衣さんのやりとりが印象的な予告に惹かれて鑑賞してきました。ツッコミどころはあるものの、言いたいことはよくわかる作品でした。

ストーリーは、不登校の息子の教育方針をめぐって妻と衝突する検事の寺井啓喜、実家で父母とかわり映えのない毎日を送るショッピングモール店員の桐生夏月、夏月の同級生で実家に戻ってきた佐々木佳道、周囲に心を開こうとしない大学ダンスサークル所属の諸橋大也、男性恐怖症で諸橋に学園祭出演を打診する神戸八重子ら、住む場所も立場も異なる人々が、ある事件をきっかけに交錯していくというもの。

多くの登場人物が、開幕から一人また一人と順に紹介するように描かれます。彼らにはまったく接点はないのですが、それぞれが何かを抱えていることがじわじわと伝わってきます。ある者は他者を枠にはめようとし、ある者は枠からはみ出さないように自分を殺し、ある者は苦しみにじっと耐え、ある者はその場から逃げ出し、ある者はわかり合える誰かを求め…と、必死にもがく姿に心が苦しくなります。そこには、常識、世間体、普通、こんな言葉に押しつぶされて、生きづらさを感じる人々の悩みや苦しみがあり、声にならない叫びが聞こえてくるようです。

しかし、自分と考えの異なるもの、自分の物差しで測れないもの、自分の常識に当てはまらないものを否定的に捉える人は、世の中にはとても多いです。自分もまさにそのタイプです。その象徴として描かれる寺井の目線からスタートした物語が、ラストではこれまで抱いていた価値観、ものの見方・考え方を激しく揺さぶるという構成がお見事です。佳道のそばから「いなくならない」という夏月の言葉を、妻が「いなくなった」寺井が聞くという対比が鮮やかです。

価値観が多様化する今の時代だからこそ必要な問題提起がここにあり、私たちはもっと寛容になるべきだと訴えかけてくるようです。ただ、少しだけ不満を言えば、佳道への嫌疑がかなり強引で、それまでの丁寧な描写に傷をつけるようでちょっともったいなかったです。

キャストは、稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、磯村勇斗くん、佐藤寛太くん、東野絢香さん、山田真歩さん、宇野祥平さん、徳永えりさんらで、それぞれが役にピタリとハマっていました。中でも、東野絢香さんがすばらしかったです。朝ドラで初めて知った女優さんですが、また一段と演技に磨きがかかったようです。

今回は舞台挨拶ライブビューイングもあり、監督や出演者から貴重なお話を聞くことができました。構成上、共演シーンが少なく、またカット割がなかったため、キャストの皆さんは互いの演技や表情を試写で初めて見たらしいです。「編集で相当な時間をかけてベストショットを繋いだ」という監督の言葉も印象的でした。監督はじめキャスト、スタッフが、真摯に向き合って作り上げた作品であることが伝わってきました。

おじゃる
humさんのコメント
2023年12月16日

寺井の圧力を冒頭からまるで一緒に味わい、ラストでの
いなくならない↔️いなくなった

この対比、よかったですね。
夏月が毅然とした物言いをした時、ほっとしました。ライブビューイングご覧になったんですね。
いいな〜。

hum
kazzさんのコメント
2023年11月26日

おじゃるさん、作り手のことを深読みされてますねぇ、サスガです。
夏月たちのように生きづらさを感じている人たちがいる、ということを描きたいのだと推察はするのですが、私は映画からそれが読み取れませんでした。力不足です⤵️

kazz
満塁本塁打さんのコメント
2023年11月13日

返信お気遣いありがとうございます♪😭おっしゃるとおりです。繊細な意味が 強引な捜査描写で霞んでしまいました。ありがとうございました😊。検事 多分左遷かと・・【しつこくてすみません🙇】

満塁本塁打
満塁本塁打さんのコメント
2023年11月12日

肯定的な包容力のあるレビューありがとうございました。私は不寛容でした。トホホ・・
ただ 捜査の強引さ だけはいただけませんでした。共感です😊嫌疑不十分で国賠、検事は左遷かと。

満塁本塁打