「「生きることへの欲求」を持つために何をすべきかを描く名作」正欲 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
「生きることへの欲求」を持つために何をすべきかを描く名作
どんな話かあまり確認せずに観に行きましたが、意外にというか、かなり良い映画でした。”普通じゃない”登場人物が入れ替わり登場し、彼らの悩みや秘め事を緩やかに見せるオムニバス形式になっていましたが、”普通じゃない”彼らの行動や思考を前にして、最初のうちは正直拒絶感がありました。それが、物語展開や人物描写、俳優陣の演技のお陰で、登場人物たちがこちらの方に歩み寄って来る感じがし、それがためにこちらにも彼らに対する共感が生まれて来るように創られていたのが、何よりも素晴らしかったと思います。
”変わった人”、”普通じゃない人”、”世間に馴染まない人”というのは、何処にでもいます。かく言う私も、他人から見ればそうした人間かも知れません。でもどうにかこうにか折り合いをつけて何とか生きて行く。それがこの映画のテーマだったのではないでしょうか。題名は「正しい欲求」と書いて「正欲」でしたが、私なりの受け止めとしては「生きることへの欲求」を描いていたように思います。それが出来ずに悲しい結末に迎える人もいる訳ですが、そうならないためにはやはり人との繋がり、共感と言ったものが必要だということであり、万人に対しても出来ることではないものの、誰かに対しては自分も出来るんじゃないかと思わせてくれました。
最も印象的だったシーンは、大学の教室における神戸八重子(東野綾香)と諸橋大也(佐藤寛太)のやり取りでした。一切心を開こうとしない大也に対し、自分の思いの全てをぶつける八重子。八重子がぶっ壊れてお仕舞いかと思いきや、薄っすらと光の見える展開に、思わず泣いてしまいました💦
また、”普通”の象徴たる検察官の寺井(稲垣吾郎)と、夫が逮捕されてしまった夏月(新垣結衣)の2度に渡るガッキー対決は、ドラマとしても最高だったし、微妙な感情を表現しきった2人の演技もアカデミー賞ものでした!
さらに、純粋かつ繊細な佐々木佳道を演じた磯村勇斗も、「月」で見せた”狂気”とは対照的な役柄を、相変わらず上手に演じていました。というか、「月」で磯村勇斗が演じた昌平も、夏月のような人に出会えていたら、ああした惨劇を起こすことはなかったんじゃないかと、作品横断的に考えた次第です。それにしても磯村勇斗こそは、最近の日本映画を名実ともに牽引していると言って過言ではないんじゃないかと率直に思えますね。
唯一気になったのは、仕事から帰宅した寺井が、食卓でネクタイを締めたまま夕食を取っているシーンがたびたびあったこと。”普通”の象徴である寺井の行動なので、このシーンにも意味を持たせているのでしょうが、家に帰ったらまずはスーツを脱ぎ、ネクタイを外し、Yシャツも脱いで家着に着替えるのが”普通”なんじゃないかと思うんだけど、どうなんでしょう。昔からネクタイを締めて家の食卓で食事をするシーンをちょくちょく観ますけど、こんな人おらんでしょと思うのは私だけでしょうか?
そんな訳で、最後にネクタイに対する敵愾心を曝け出してしまいましたが、それを除けば物語、演技、映像ともに、非常に素晴らしい出来栄えの作品でしたので、評価は★4.5とします。
共感ありがとうございます。
正欲
観るまでは、何を意味した言葉なのか、
まるで想像がつきませんでした。
“生きることの欲求“
私も、つまりは夏月や佳道がそれまでの、
ただ喜びを感じずに死んだょうにただ呼吸していた人から、
生きようとし始めた人、に見えました。
この感情を形にする原作とそれを映像化した作品に、
とても驚きました。
それから、
フォローバックありがとうございます。
とても光栄です。