「古くて新しくて恐ろしい話」福田村事件 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
古くて新しくて恐ろしい話
福田村事件の事実を基礎としながらも史実そのままではなく、朝鮮帰りのモダンなリベラル夫婦や、夫がシベリア出兵で死んだ寡婦と不倫する川の船頭、正義感に燃える地元新聞の女性記者など複数の架空人物を交えたフィクションを含む物語になっている。彼らを演じる井浦新、田中麗奈、東出昌大、コムアイ、木竜麻生がいずれも素晴らしい。他にも行商団リーダー役の永山瑛太、村長役の豊原功補、自警団長役の水道橋博士、新聞編集長役のピエール瀧、村人役の柄本明など、インディーズ映画にも関わらずかなりの豪華キャスト。もともと荒井晴彦ら旧若松孝二組で福田村事件の企画が進んでいたところに、同様に福田村事件の映画化を考えていた森監督が合流したらしく、若松組だった井浦新だけは当初から出演が決まっていたとのこと。次いで噂を聞き付けた東出昌大が森監督の作品なら何の役でも出たいと名乗りを上げ、永山瑛太もぜひ自分の出番を増やしてくれと申し込むなど、全員この企画に大いに乗り気だったそうだ。当初は俳優が誰も出てくれないんじゃないかと危惧してたそうだが、みんな二つ返事で引き受けてくれたらしい。そういや東出・木竜・井浦は同じ時代が舞台で題材も近い『菊とギロチン』にも出てたな。オーディションにも多数の役者が殺到したらしい。
前半から中盤は福田村民と行商団それぞれの日常を描いており、福田村の牧歌的ながらも田舎特有の閉鎖的で嫌なところが情愛絡みも含めて描かれる一方で、行商団の人々も朝鮮人には差別的感情を持っている一面も描かれていて、単純で図式的な善悪二分論に陥ることを避けている。森監督は善良な被害者と狂暴な加害者というような描き方はしないようにして、ある異常な状況下では普通の人が普通の人を殺す恐ろしさを描きたかったとのこと。大地震が起こった後半は一気に映画が不穏な雰囲気に傾いていき、終盤目を覆うような虐殺が描かれる。その前半との落差が凄かった。女性記者が東京で目撃する朝鮮人虐殺や、社会主義者が虐殺された亀戸事件も描かれており、井浦演じるリベラル夫が朝鮮で目撃した三・一独立運動で朝鮮人が虐殺された堤岩里教会事件についても言及されている。僕も朝鮮人虐殺や甘粕事件、三・一独立運動は知っていたが、福田村事件や亀戸事件や堤岩里教会事件については不勉強にしてほとんど知らなかった。
とにかく凄い映画でした。デマやフェイクニュース、ヘイトスピーチやヘイトクライムといった現代にも通じる問題が含まれた事件とスタッフ陣も考えていたそうだが、まさにその通りだろう。単純に映画としての出来もすごく良い。こういう言い方をするのも何だが、純粋に映画としてもとても面白かった。やはりこういう映画は作られなければなるまい。
この題材は当事者の問題がありドキュメントにし辛いと思うので、劇映画にするのは仕方ないしエンタメ要素も不可避だと思いますね。裸が出て来ると拒絶反応が多いですが、ただ入れただけともちょっと違う気がするんですがね、ソレしか無い閉塞感とか肉欲の部分とか。
共感ありがとうございます。
全てが全て真実ではなかったにしろ、こんな歴史があったということを、映画を通じて知れた事は良かったと思っています。面白いという言葉が適切とは、思いませんが印象に残る良い作品でした。