「闇に葬られた負の歴史に愕然唖然」福田村事件 松王○さんの映画レビュー(感想・評価)
闇に葬られた負の歴史に愕然唖然
劇場で予告編を観た時から鑑賞意欲をそそられ、ポスターを観て、絶対観たい!と思っていた今作をやっと鑑賞しました。
で、感想をと言うと…凄いヤバい。
頭をガツンとやられた感じで面白い、面白くないの次元で語れないぐらいの衝撃。
観る人を確実に選ぶ作品だけどこういった事件が過去にあったと言う事を知るべき作品として個人的には鑑賞すべしと言う感じ。
様々な社会派ドキュメンタリー作品を手がけてきた森達也監督はエッジの効いた作品を多数発表してきたが今回はよりエッジが効き過ぎかつ、意義の高い作品を出してきた。
関東大震災時にどさくさに紛れた朝鮮人狩りと称した自警団による粛清により、薬の行商の一団が濡れ衣、誤解、行き違いから暴行、殺害されると言うのが生々し過ぎる。
もう、クライマックスの暴行、殺害シーンは衝撃的過ぎて、観る側に重いショックを与える。
人権的差別に暴行に一気に頭が沸騰し、数の暴力による行動に観る側の加害者への報いを衝動的に念じてしまい、ショックと「目には目」の暴力衝撃を起こさせてしまう。
それだけでもヤバいのに映倫区分ではPG12指定だけど、下手なホラー映画やバイオレンス映画よりも違う意味でタチが悪い。
だけど、近年まで意図的に闇に葬られた負の歴史を知る意味でもとても意義の深い作品なだけに観る側のある程度の覚悟と情報が必要かと。
役者陣の熱意の高い演技で最初から異様に高いテンションにドキドキしてしまう。
特に水道橋博士さん演じる自警団軍人は当時の歪んだ日本人の象徴のような存在で怪演過ぎる怪演。
難点があるとすると本来の福田村事件に井浦新さん演じる澤田智一と田中麗奈さん演じる澤田静子の夫婦が京城から帰郷した事で物語が始まるが、ストーリーテラー的な澤田夫婦が流れを作っていても何処か余計な伏線も入っていて、少し蛇足感がある。
特に静子の倉蔵との情事は物事の伏線を膨らますポイントになるが、その後の智一と静子の関係性があっさりし過ぎていて余計に感じるし、物語の本質を濁らしている様にも感じる。
いろんな伏線を張り巡らせている分、本質に至るまでに少し中弛みが感じられているのとなんでもかんでも詰め込め過ぎるかなと思うのが個人的な一意見。
様々な災害に便乗した事件や事故は今も昔も変わらないが情報の錯乱による流言蜚語が怖すぎるが特に政府に意図的な情報操作がヤバすぎる。
軍国主義真っ只中で愛国心に溢れた国民がわんさか。
様々な国の事情や情勢が分からないから仕方ない部分があるにしても、それが情報統制の結果の部分も多分にあり、そこに人権・人種差別が組合わさり、いろんな伏線が張り巡らせ、大きな流れになっていく。
まるで幾つかの小さな亀裂が起こり、大きなひびとなってやがて決壊していくような様を見ているかのような錯覚に陥る。
また集団暴動の心理は現在でもあるが、ここまでのご都合主義の排他的主義に至るのはもう口あんぐりどころではない感じ。
時代が古い、悪かったとかの問題ではなく、集団心理による人間に潜む内なる悪意と衝動、排他的願望が怖すぎて、様々な誤解と罪もない人達への凄まじ過ぎる暴行が本当に悲しい。
また、この事件が被害当事者が二次被害を怖れて、口を噤んでいたことから、半世紀以上経ち、被害者側からの連絡が来るまで明らかにならなかったと言うのが怖すぎる。
加害者たちは極刑にならず、恩赦により直ぐに釈放となり、挙げ句の果てにはその内の者がその後に選挙にも出馬しているとは…
面の皮が厚いとか、喉元過ぎれば熱さを忘れるの問題ではなく、自身の中の正義がこんなにも利己的に解釈されるのかと思うと今の情報過多であっても平和な日本である事を有り難く思います。
数年前に公開された同じく関東大震災をきっかけに起こった朝鮮人排除事件を題材にした「金子文子と朴烈(パクヨル)」は韓国側の視点で描かれてけど、この作品は日本人側から負の歴史を暴いている分、何処か生々しい。
この作品とセットで観るとより意義が高いかと思いますが、大阪は十三のシアターセブンで福田村事件の上映に合わせて金子文子と朴烈の再上映されるとはごっつうええ感じw
関東大震災から約一世紀とタイミングとしてはバッチリで観れば観る程、調べれば調べる程に闇に葬られた負の歴史に目が離せなくなる。
怖いもの見たさではありませんが、覚悟を持って鑑賞するのであれば、十分に価値と意義のある作品かと思います。