「名前の意味」ペルシャン・レッスン 戦場の教室 LSさんの映画レビュー(感想・評価)
名前の意味
架空言語モチーフと知り、SF好き的に胸が踊った。ぎりぎり間に合って新年1本目。
あらすじから、主人公が無からどう言語体系を組み立てていくか、矛盾を追及されたら(偽ペルシャ語とバレれば殺される)どう乗り越えるのか、といった点に興味を持った。
結果は、劇中ではほぼドイツ語から創作単語への置き換えに終始し、文法の話がなくやや肩透かしだった(「矛盾」もあったが、既出語の重複だった)。
だが、その「置き換え」こそが主人公を次第に蝕む。彼は厨房仕事の合間に作成を命じられている収容者名簿の人名をもじって新語を創出する。それは増え続ける単語を忘れないための工夫だった。だが、自分が生き残るために捻り出すその一語一語が、死地に送られるユダヤ人ひとりひとりの命だと気づいた時、教え子のSS士官の庇護から逃れて、絶滅収容所への列に自ら加わってしまうほど追い込まれる。
ラストの独白はユダヤ人社会や遺族には(死者が闇に葬られるのを防いだという意味で)ある種の救いだが、生き残った主人公にとっては一生背負わなければならないくびきでもある。
一方、教え子は元々は料理人で、「何となく」SSに入隊し、収容所の職員食堂を預かる立場にいる。仕事は几帳面、学習においては真面目で、一貫して約束を守る人物として描かれる(だからこそもうひとつのラストがカタルシスとなるわけだが)。
彼は(ペルシャ系の人間を探すため?)収容者名簿の仕事も担当しているが、彼にとって重要なのは字がきれいで表が整っているかで、書かれた名前は単なる文字の羅列に過ぎない。そこに関心が及んでいれば(実際、名簿のからくりに気づいたかと思わせるシーンもある)、主人公の嘘を見抜けたかもしれない。
結局、ユダヤ人の虐殺には直接関わっていないと自分を納得させたところで、行われていることに無関心であったことの報いを受けたといえる。秀逸なプロットだと感嘆した。
ただ、教え子が最後まで偽ペルシャ語に気づかなかったという設定には若干無理がある気がする。前線の配属先では情報入手が困難だったのは分かるが、脱走後イランに到着する前には第三国を経由しているはずで、読み書きを習っていないとしても、下調べや機内を含め本物のペルシャ語に一切触れないというのは不自然に思える。それだけ主人公を信じていたと強調するためか。