「実話を元にした気持ちの良い素敵な作品。」桜色の風が咲く ゆめさんの映画レビュー(感想・評価)
実話を元にした気持ちの良い素敵な作品。
良い作品だった…。
「視覚も聴覚も使えない方はコミュニケーションどうするんだろう。周りはどうしたらいいんだろう?」と何も知らない状態だと全然想像ができない。
でも本作を観て、盲ろうについて「わからないもの」ではなくなった。まずそこが良かったと思う。
(でも福島智さんは中途の盲ろうなので最初から全盲ろうの方の場合はまた違うのだろうな。)
そして、本作で描かれる福島智さんはとても魅力的で素敵だった。教養やユーモアがあって、人とのコミュニケーションが上手。家族に憎まれ口を叩いて笑わせる姿が印象的。
置かれている状態は自分に置き換えると相当過酷なものだと思うのに、その孤独や苦悩はちゃんと描きつつ、作品自体は悲劇性は全然漂わない。
その全体的なバランスの取り方が本作はとても良かった。
福島さんの置かれた状況に同情するのではなく、一人の人間として魅力的な福島さんを好きになってしまう。そんな描かれ方をしていたと感じる。
でも序盤は母・令子さん視点が多いので同性目線、母視点で見てしまうと胸が詰まった…。
(そしてリリーフランキーさん演じる医者の横柄さと不信感を煽る態度は心底憎たらしい…。)
令子さんで印象的だったのは、やはり指点字のシーン。コミュニケーションを発達させるものは「足りなさ」と「相手へ伝えたいと思う気持ち」なんだなと、令子さんの姿を見ていて改めて思う。
家族のシーンも良かったなあ。
家族みんなで海にお出かけして写真を撮るところ(智さんのお父さんが智さんとおそろいのサングラスをかけてるところ、説明はされないけどお父さんの優しさが感じられてとても良い…)が好きだし、お父さんと智さんが一緒にビールを飲むところも良かった。
あと智さんが同級生の増田さんのピアノを聴くシーン、なんて美しいシーンなんだろうと思った。
そこで流れるベートーヴェンの「悲創」のピアノのまた美しいこと…。
美すぎて泣きたくなるような尊いシーンだった。
あと作中で引用されていた吉野弘さんの詩も素敵で印象的。「生命(いのち)はその中に欠如を抱き それを他者から満たしてもらうのだ」というところが素敵だなあと思う。
そう、振り返ってみると本当に素敵なシーンがたくさんキラキラと胸の中に残る作品だった。
人の障害を扱う作品って重くなりがちだけど、この作品はそ鑑賞後の後味も良いので、尻込みせず色んな人に見てほしいなあ。