「荒唐無稽を押し切れるパニック映画の強さ」奈落のマイホーム 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
荒唐無稽を押し切れるパニック映画の強さ
11年の節約生活の果てに念願のマイホームを購入した一家。しかしそれはとんでもない欠陥住宅だった…
シンクホールといえば、2016年に福岡市博多区で発生した事故が記憶に新しい。幹線道路のど真ん中にポッカリと大穴が空いた航空写真は日本中に衝撃を与えた。幸いにして犠牲者は一名も出なかったものの、シンクホールという現象が身近に起こりうることを改めて実感させられた一件だった。
さて、それでは一棟の立派なマンションの真下にシンクホールが発生したら?本作はシンクホールに巻き込まれてしまった不幸なマンションとその住民が織り成すパニックドラマだ。
しかし蓋を開けてビックリ、中身は抱腹絶倒の荒唐無稽コメディだった。よくよく考えてみれば500メートルのシンクホールという設定からして常軌を逸しているし、そこに落っこちたマンションの住民が平穏無事でいられるはずもない。映画に現実との相即性を求める御方であればこの時点で脱落は必至だ。
シンクホールからの脱出という目的にも向かいつつも、グラグラと揺れる屋上部で繰り広げられるアンバランスなアクションや廃車の中で育まれる恋愛模様など、バカバカしい要素が随所に散りばめられている。特に終盤の「水に浮くものを探せ!」から始まるくだりはさながらコントのようで死ぬほど笑える。
ただ、荒唐無稽でありながらも物語の展開は人物相関の描き方は見事なので、最後まですんなりと観れてしまう。初めは不快な人物として設定されていた代理や兄貴が徐々に好漢ぶりを発揮していく過程が愛おしい。細やかなセリフや所作が終盤で伏線として無理なく回収されていくテンポ感も心地よかった。後半で畳み掛ける不幸のドミノ倒しも映画を最高潮に盛り立てる。本作は2021年の韓国国内での興行収入が2位だというが、確かにちっとも不思議じゃないな。
中盤、主人公が死んでしまった孫とその死体を見取る老婆を置き去りにするシーンがあるのだが、「誰一人取り残さない」というエゴイズムよりも、老婆の「孫を看取りたい」という哀悼心を重んじた主人公の勇気と高潔さに拍手を送りたいと思った。これがしょうもない邦画なら老婆を助け出すシーンで20〜30分は無駄にしていたのではないか。
あとはラストシーンで生死を共にした面々が花火大会の音に一瞬怯えるシーンがめちゃくちゃよかった。そりゃあんだけの事故に巻き込まれたらPTSDも発症するわな…