「大借金からの大逆転、教えます」大名倒産 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
大借金からの大逆転、教えます
『殿、利息でござる!』や『引っ越し大名!』など従来とは違った類いの時代劇。お金や奇策で藩を救うとか、現代感覚を取り入れ、なかなか面白味ある。
本作もその系統。
最初の10分は別の映画を見ているのかと。
確か若君が財政難の藩を救うという先述の作品と似たような話と思ったのに、塩鮭作りの役人の話…?
勿論これは前置きで、後々“収入源”になる。
越後丹生山藩。鮭役人の息子として平穏に暮らしていた小四郎に、ある日突然驚きの出生。
徳川の血を継ぎ、藩主の跡継ぎである事が分かる。
現藩主の一狐斎が奉公の娘(母・なつ)を孕ませて産まれたのが小四郎。
一狐斎は隠居。息子が三人いるが、長兄は死去、次男はうつけ者、三男は病弱。そこで小四郎が次の藩主に。
つまり、単なる一庶民から殿様に…!
ワォ!大出世!シンデレラ・ストーリー!
…と喜んでいる暇も無かった。
藩には莫大な借金。その額、25万両。現在の額にして、何と100億円…!
オーマイガー…。大借金を抱える極貧藩の殿様になってしもうた…。
勿論何とかしなければいけない。しかし、何の策も思い付かない。頭を抱える小四郎に、一狐斎がある提案を。それは…
“大名倒産”。借金返済当日に、藩主が藩の倒産を宣言し、踏み倒して幕府に肩代わり。
要は自己破産なのだが、それで救われる者もいる。
唯一の策のように思えるが、からくりあり。
救われるのは、藩の一部の者。所謂お偉いさんだけ。
大名倒産は決して幕府に知られてはいけない。もし知られたら、藩主は腹を切って全責任を負う。
実は大名倒産も借金背負った藩の責任も、一狐斎が小四郎に押し付け。
大借金に切腹…。この大ピンチを小四郎はどう切り抜けるのか…?
藩の借金返済大作戦。
武具など不用なものは売る。この時の小四郎の台詞が良かったね。武器など持っているから戦をするんです。
売れるものは何でも売る。殿の“アレ”を肥やしとしてまで。今で言う“リサイクル”。
必要なものは借りる。共有する。今で言う“サブスクリプション”。
別に暮らす異母兄二人と一つの屋敷で暮らす。今で言う“シェアハウス”。
参勤交代。豪勢な宿場に止まるんじゃなく、野宿。テントを張って、食事も自分たちで採って作って、今で言う“キャンプ”。
あの手この手、色々策を巡らしての節約。
我々現代人も見習わなければならないが、やってる事は割とあるある。『殿、利息でござる!』や『引っ越し大名!』のような時代劇×現代感覚の目から鱗となるものにはちと欠けた。
序盤はかなりコメディ調。ドタバタ。ヘンな効果音や漫画チックな説明シーンなどで、何だかまるでただ現代人がやってる時代劇コントにしか見えなかった。
時代劇初となる売れっ子の前田哲監督だが、合わない…?
しかし、見ていく内に持ち直してきた。
目から鱗の財政立て直し物語というより、これもれっきとした人情時代劇。
ピンチを乗り越えるのはやはり、庶民ならではの知恵、仲間の存在、上に立つ者の良心。
庶民から殿様になって、てんやわんや。
大借金にええ~っ…。切腹にええ~っ!
家臣たちにも敬語やさん付けで話し、藩主としての威厳はまるでナシ。
だけど、人の心が分かる。思いやる。
当初は嫌々だったかもしれないが、次第に藩を救う為、必死になる。実父と対立してまで。
育ての父の塩鮭の味を忘れない。価値観は庶民目線。
生きていれば誰かの役に立つ。亡くなった母の教え。
そんな心優しい庶民派殿様。応援したくなってくるし、こんな上司に付いていきたくなる。
時々オーバーリアクションが目立つが、神木隆之介が好演。
そんな殿様を支えるは、仲間や家臣たち。小四郎も彼らを信頼する。
節約術や庶民の知恵。“能なし侍”に食って掛かり、あらゆる場面で小四郎を叱咤激励して支える幼馴染み。杉咲花に萌える。
次男・松ケンのおバカ演技、石橋蓮司の安定の黒幕、梶原善の大・中・少…。周りもユニーク。じんわりする小日向父と宮﨑母。中でも印象残ったのは、
小四郎の世話役。忠誠尽くすように常に控えるが、実は一狐斎ら側の監視役。が、小四郎の側にいる内に、板挟み…。切腹バカでもあるけど、忠義深い平八郎を、浅野忠信が好助演。
で、今回の一件に深く関わっている前藩主の一狐斎。腹黒さ、憎々しさ見せつつも、若い頃は小四郎のように理想に燃えていたが、いつしか見失い…。何処か悲哀も滲ませ、終盤思わぬ見せ場。ただの嫌な役所だけではない佐藤浩市のいつもながらの存在感。
必死に藩立て直しに奔走する小四郎。
その姿を見て、当初は見放していた家臣たちも協力。
異母兄たちもいい兄で良かった。
皆で藩を救う。いいね、この一体感。
参勤交代で育った丹生山藩へ。村や家は荒廃していた。
育ての父も塩鮭作りを辞めていた。収入になどならぬと幕府からお達しで、力仕事に従事させられていた。
またこの父の日本一の塩鮭を。丹生山のみならず、江戸にまで味わって貰いたい。
それが藩を救う事になる。民を救う事になる。
でも、どうすれば…?
こちらも板挟みの勘定方が持っていた帳簿を調べ、藩の大借金の原因を掴む。
藩の借金の大半を貸し付けている“天元屋”。橋工事の費用500両を5000両と偽り、その“中抜き”を着服。そうして膨れに膨れ上がった借金。
全ては、一狐斎と幕府の老中首座と天元屋の癒着。
これを暴露。後は証拠を掴むだけ。が、その証拠が無い。
遂に借金返済当日。若き藩主が藩を救う、絶対に負けられない“戦”に挑む…!
証拠が突然“投げ込まれた”。それを知らせたのは…。
思わぬ裏切り。こちらにとって絶体絶命ではなく、まさかの協力。小四郎の真っ直ぐな姿が“父”を動かした。
証拠品、節約金、一狐斎の老後の資金(←ここ、痛快!)で、占めて25万両。借金返済!
これにて一件落着…とはならず。借金が無くなっただけで、これからの藩の収入源は…?
そう、お察しの通り。
あの塩鮭、食べてみたい。
節約や強いてはSDGs。時代劇から学べる現代を生きるヒント。
人情時代劇であり、勧善懲悪時代劇。
最後は晴れ晴れと。
若き藩主と仲間たちの大逆転。見事ハッピーエンド…いや、
これにて一件落着!