「この映画の私的に思われる短所と長所」少女は卒業しない komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
この映画の私的に思われる短所と長所
(完全ネタバレですので鑑賞後にお読み下さい)
この映画が俄然面白くなるのは、料理部部長・山城まなみ(河合優実さん)にまつわる真相が明らかになるあたりの、それぞれの生徒(少女)の独白が始まるところからだと思われました。
それぞれの生徒(少女)の独白は、まだ何者でもない卒業間近の高校生の孤独で不安定な感情の揺れを表現していると感じて心が揺さぶられました。
特に森崎剛士(佐藤緋美さん)がアカペラで歌う場面は、卒業生の全員の卒業を祝っているようで、森崎と中学から友人の軽音部部長・神田杏子(小宮山莉渚さん)の誇らしげな表情と合わせて感動しました。
(そのアカペラを聴いた生徒からの森崎の人気を嬉しくも寂しそうに見る神田杏子の表情も合わせて‥)
作田詩織(中井友望さん)が坂口先生(藤原季節さん)から、代わりに同じ新しい本を買って来たのに、その同じ新しい本の方を学校に返却するように言われ、作田詩織がずっと借りて持っていた本の方を渡された場面。
東京の大学に行くバスケ部部長・後藤由貴(小野莉奈さん)が地元に残る寺田賢介(宇佐卓真さん)と花火をした後に寺田と別れる場面。
山城まなみが佐藤駿(窪塚愛流さん)に対して上着を掛け、最後、彼に対して卒業生への答辞を読む場面。
それぞれに素晴らしい感動があったと思われます。
しかし、これは残念ながらなのですが、私的にはこの少女(生徒)たちの独白が始まるまでのシーンは、正直に言うと若干退屈だなとは思われていました。
その理由は、
1.それぞれの独白
2.(1とはまた別の)<周りの人物との関係性>
での、(1それぞれの独白とはまた別の)2<周りの人物との関係性>が、この映画では曖昧ぼんやりにしか表現されていないところにあると思われました。
この映画の長所は、1それぞれの独白がしっかりと感動的に描かれている点だと思われます。
しかし短所が、2(独白とはまた別の)<周りの人物との関係性>をしっかりと捕まえられていない所にあると思われました。
この映画は1の独白が始まるまでは、彼女たちの内面は描かれず、2<周りの人物との関係性>が主に描かれて進行して行きます。
しかし例えば私達は、自分が日頃、様々なことを独白的に思っていたとしても、周りの人物と出会った時は(自分の内面(独白)とは別の)2<周りの人物との関係性>を踏まえた会話をすると思われます。
この時の2<周りの人物との関係性>は、例えば職場の上司や部下や、最近の友人や幼馴染、家族などで、微妙にそれぞれで関係性は変わって行きます。
そこには上下関係や距離感、感情の起伏、話題の選択など、様々な要素が出現すると思われます。
私達は、1独白内面と2<周りの人物との関係性>とで、いつもズレていて、その点をしっかり意識して映画(作品)は描く必要があると思われるのです。
そして2<周りの人物との関係性>は、対面している人物によってもズレが違ってくると思われます。
この<周りの人物との関係性>である2.(独白とはまた別の)他の人物との関係性がきちんとこの映画では意識されて描かれていないのではないかと思われました。
例えば、内向的でクラスの生徒と話せない作田詩織が、図書館担当の坂口先生には思わず自分の想いを語ってしまう場面で、なぜ彼女は坂口先生にその時にポロリと(他の生徒とは違って)話すことが出来たのか?
(独白内面とは別の)2<周りの人物との関係性>(つまり作田詩織と坂口先生との関係性がどういうものなのか)が意識されてその場面が描かれていない(つまり作田詩織の独白が明らかになる以前はこちらに伝わって来ない)のが気になりました。
つまりこの映画は、それぞれの独白が始まるまでは、一体何をこの映画は描いているのか?が、2<周りの人物との関係性>においてそれぞれで曖昧にしか描かれていないのでずっと不明のままなのです。
それがこの映画が、独白が始まるまでは退屈さがあった理由だと思われました。
この映画の欠点は、1独白の明確さと、2<周りの人物との関係性>が曖昧でぼんやりしている、両極端なところにあると思われました。
もちろん2<周りの人との関係性>が曖昧ぼんやりなのは、まだ何者でもない卒業間近の高校生の不安を表現しているのだとの評価もあるとも思われます。
しかし私的には、2<周りの人との関係性>をしっかり意識し繊細に深く表現した上で、卒業間近の高校生の内面の不安を描くことは可能だったと思われます。
(曖昧ぼんやりと、繊細に深くとは、似ているようで全く違うと思われるのです)
そうすればこの映画は、前半は2<周りの人との関係性>の面白さ、後半は1内面の不安の独白の感銘、が描かれた傑作になっていたように思われました。
その点が本当に惜しいと思われ、今回の点数となりました。