「四人の高校生にとっての卒業式当日とその前日を描いた切なくも爽やかな青春譚」少女は卒業しない よねさんの映画レビュー(感想・評価)
四人の高校生にとっての卒業式当日とその前日を描いた切なくも爽やかな青春譚
廃校が決まり校舎の取り壊しも決定している山梨県下の高校での卒業式とその前日の物語。春からの上京を前に地元の大学に進学する彼氏と気まずい関係になってしまった由貴、卒業式後のライブ準備に忙しい杏子、クラスに居場所がなく卒業式前日でも図書室に籠ろうとする詩織、そして卒業生代表として答辞を任されたまなみ、4人の高校生はそれぞれに秘めた想いを胸に最後の2日間をかけがえのないものにしようとしていた。
原作者が朝井リョウなので当たり前ですが、『桐島、部活やめるってよ』によく似た切ない雰囲気が印象的。『桐島〜』は同じ一日を違う視点で何度もなぞる物語だったのに対して、本作はさりげなく挿入されるカットでようやく気付かされますが巧みなミスリードでドラマに厚みを持たせています。そこは変な比較ですが『仮面ライダー THE FIRST』によく似ています。描かれる4つのストーリーはほぼ交わることなく流れてそれぞれの結末に辿り着きますが、最も切ないのはまなみの物語。何が起こったかはほとんど直接的に語られずポトポト落とされるカットの断片がずっしり重い刹那に誘います。
ただそこにいるだけでドラマが勝手に湧き上がるかのようなまなみを演じる河合優実の存在感がなんといっても圧倒的。全ての表情が美しくて尊くて、最後の主演作『古都』の山口百恵を思い出しました。小野莉奈が演じる由貴は『アルプススタンドのはしの方』で演じたあすはとよく似て胸の内のわだかまりを不自然なまでに明るい言動でカモフラージュする様が痛々しい。小宮山莉渚が演じる杏子が一番ミステリアスなキャラですが、その心の底にある思いは誰よりもプリミティブでキュート。中井友望が演じる詩織は最も地味ですが、彼女を救うのが『キャリー』であるところに胸をかきむしられました。鋭角的で精悍なマスクが印象的な『佐々木、イン、マイマイン』の藤原季節が詩織に最後の2日間の過ごし方を伝授する坂口先生を演じていたのが意外でしたが、他作品では見たことがないような柔和な表情で好演しています。
『桐島〜』のような派手なクライマックスはないものの、いかにも卒業式後のような甘酸っぱさが味わえる素晴らしい青春譚に仕上がっています。