「家族愛をテーマにした隠れた傑作」ファミリア osugi55さんの映画レビュー(感想・評価)
家族愛をテーマにした隠れた傑作
役所広司が主演であり、日本に不法滞在しているブラジル人をテーマにした話かと思っていた。
しばらくはそのつもりで観ていたが30分程でまったく違うテーマであることがわかった。
息子が紛争孤児である女性と結婚しナイジェリアでのプラント開発の仕事を辞めて陶工房を継ぎたいと話すも、それを拒否する役所広司演じる神谷誠治。
陶工房では満足な収入がなく、妻が働きすぎたことで病死したからだ。
誠治の住む地域にはブラジル人の不法滞在者が住む団地があり、男性は土木作業などの日雇い労働を、女性はキャバクラで働いている。
ここからブラジル人と誠治の交流が始まるかと思いきや、半グレがどんどんブラジル人たちを追い込んでいく。
半グレのリーダーである榎本の妻子がブラジル人の飲酒運転事故に巻き込まれ亡くなっていたという理由が明かされ、ここで役所広司に始まり吉沢亮や佐藤浩市、松重豊などのそうそうたる俳優陣がこの映画への出演を決めた理由を垣間見た気がした。
誰しもがそう行動した「理由」を持っているのだ。
誠治の息子である吉沢亮演じる学がナイジェリアでテロの人質に巻き込まれてしまった時はここまで風呂敷を広げていいのか?と勝手に心配したが、ここでの息子の死が重要なファクターとなった。
誠治やブラジル人少年のマルコスが現状を打破しようと必死にもがくが、現実は時に無情で残酷だった。それは榎本にとってもそうだったのだろう。
終盤にマルコスとその恋人エリカが半グレに追い詰められ生きるか死ぬかの瀬戸際にいることを知った誠治は身を張って半グレ集団のアジトに乗り込み、マルコスたちを救った。
息子や孫を失った誠治にとって、ある意味で自分自身をも救う行為だったのだろう。
今日も誰かが誰かのために行動している。
血縁関係に関わらず、絆や愛はそこに自然と生まれるものなのだと感じた。
おそらく大ヒットはしないだろうが、観た人の心を打つ隠れた傑作になる映画だった。