「誰かの孤独を包み込む優しさ」ちひろさん ごーさんの映画レビュー(感想・評価)
誰かの孤独を包み込む優しさ
◾︎あらすじ
元風俗嬢が海辺の小さなお弁当屋さんで働き、それぞれ孤独を抱える人達と関わっていく話。
◾︎感想
孤独を抱える人達と交流し、笑顔にしていくちひろさんの姿には温かみを感じた。風俗嬢という仕事も、人の辛さを受け止めてあげたり、笑顔にしていくような仕事だと思うが、作中でちひろさんがやっていることは本質的にそれと変わらないかもしれない。名前も知らない浮浪者や家庭環境に難がある小学生にお弁当あげたりできるのは、風俗嬢として働いていたときに培った感受性や懐の深さがあったからではないかと思った。
印象に残った台詞は、ちひろさんが落ち込んでいたときの元風俗店店長の台詞。「しばらく沈んどけ、じたばたするからどんどん沈むんだ。人は浮かび上がるようにできてる」。私も仕事で上手くいかないことがあって気持ちが沈むことがある。この台詞はそんな自分にも投げかけられているようで「ずっと底にいるわけではないよ」って諭してくれているみたいであった。
惜しいと思った点は大きくわけて二点。一つはちひろさんが海辺の小さなお弁当屋さんで働こうと思った動機が不明瞭だったこと。ふらっと立ち寄ったお弁当屋さんにたえさんがいた事が影響しているのはわかるが、No1風俗嬢だった人がお弁当屋さんで働こうと思った理由がもっと明白であってほしかった。もう一つは生き物を大切にするちひろさんの性格の背景。カモメを埋葬したり、水に溺れそうになる蟻を助けるシーンは、ちひろさんの優しさが滲んでいたと思う。そういう性格の背景が描かれていると、納得感も増したのではないだろうか。
最後に、ちひろさんの生き方はある意味自分の理想だったと思う。関わる人々の孤独や苦しみを受け止めてあげること。罵倒されてもすぐに反論せず、本質的に大切なことを言ってあげられる落ち着きと優しさ。人との関わり方を考えることで誰かに小さな喜びや優しさを分け与えることが、本当の豊かさなのかもしれない。