劇場公開日 2023年2月23日

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「属性から解放される時」ちひろさん 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0属性から解放される時

2023年3月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

聖なる娼婦というモチーフは現代においては批判にさらされやすい。本作もややそういう傾向のものとして受け止められている面があるようだが、実際、風俗業に携わる人も、そんなに特別な人たちではない。見下すのも神聖視するのも、どちらも普通から除外するという点で差別的である。
しかし、風俗のような職業が、人間の様々な面を観る機会が多いというのも事実で、そういう意味では人生経験が豊富になるし、観察眼も冴える。この映画の主人公、ちひろさんのもとには生きづらさを抱えた人たちが老若男女問わず慕ってくるが、それはどちらかというと彼女の経験の豊かさゆえだろう。過剰に神聖視は必要ないが、彼女の経験値を否定する必要もまたない。
人は人間関係を築く時、しばしば「属性」に頼ってしまう。ちひろさんは誰にも属性を尋ねない、今目の前にいるその人とそのまま接するのだ。その属性からの自由になる感じに、人は惹かれていくのではないか。親の前では子どもでいなくてはいけないし、学校では生徒でなくてはいけないし、職場では労働者という属性として振る舞らねばならない、しかし、ちひろさんの前では、何者でなくても構わない。属性に疲れた人にはそれが心地いいのだ。この映画を見ている間は、観客も何か属性から解放されたような気分になれるはずだ。

杉本穂高