「父と、母と、僕と。温泉の思い出。」湯道 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
父と、母と、僕と。温泉の思い出。
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昨年、混浴をした。
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父と母の 結婚64周年。
彼らが新婚旅行で泊まった群馬県の温泉宿に、僕は父と母を招待して、三人で、ゆっくりと滞在したのだ。
二人のアルバムの白黒写真は、今よりもずいぶんとサイズは小さくて、少し黄ばんだそれらの写真は、墨色のぶ厚い台紙に三角の糊で留められている。
歴史100年を超えるその旅館。
新婚さんがあの日に泊まった、正にそのお部屋「5号室」にて、三人で川の字になって寝た。
僕はハネムーン・ベイビーではないらしいのだが、父と母が愛し合ったその和室だ。
温泉は大中小の3つ。
物忘れの始まった父の背中を流し、脱衣室ではお互いのパンツを間違えて穿き、
大きな鏡に父と並んで「よく似ているねぇ」と大笑いし、そして
プールのように大きな、宿の名物の混浴風呂に、三人で一緒に浸かる。
古い写真と同じポーズで、窓辺の椅子に二人を座らせ、記念写真を撮った。
「あの温泉にもう一度行ってみたいものだ」と言い続けていた父の願いを叶えてやることが出来て、息子冥利に尽き、感慨無量だった。
父は認知症が進み、母は旅行の翌年には脳梗塞で倒れ、一緒にお風呂に入ったことが宝物になった。
老若男女、誰にでもある お風呂の思い出。とてもとても書ききれない。
劇中、笹野高史が亡き妻を想って笑い泣きをする。
じんわりと温まり、幸せを感じさせてくれた映画だった。
そういえば僕の名前は、産院で、早朝の沐浴を見せてもらっていた父が、その入浴の様子から名前をひらめいたのだと言っていた。
「産湯」から「湯灌」まで、
人の命とお湯の関係はほとんど一体で、切っても切れないものですね。
おはようございます。
平日は仕事なので、コメントはしないのですが、きりんさんのレビューが素晴らしいので。最高の親孝行ですね。私も週末、両親に会いに帰郷します。父がどれくらい話せるのか分かりませんが、母が私が来ると伝えたら、"忙しいのに、悪いなあ"と言いながら嬉しそうに、笑ったそうです。では。