「全ての道は湯に通ず」湯道 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
全ての道は湯に通ず
茶道や華道は知っている。
でも、湯道って…?
その名の通り、湯の道。
入り方一つ、湯道具一つに極意あり。
湯に浸かり、己を知る。悟る。その道を行く。
極めし道、極めし者。
高尚な会館、家元、教えを乞う者たちもいる。
全ての道は湯に通ず。
奥深き湯道。
…な~んてのは冗談。
『おくりびと』の脚本家・小山薫堂が提唱する架空の道。お風呂愛好家だそうな。
でも見てると、本当にありそうと言うか、本当にあってもいいとさえ思えてくる。
だって、
日本人は湯に浸かるのが好き。
お風呂、銭湯、温泉…。
歌にだってある。♪︎ババンババンバンバン…
映画にも。『テルマエ・ロマエ』『湯を沸かすほどの熱い愛』『わたしは光をにぎっている』。『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』や『千と千尋の神隠し』だってそう。
かく言う私も、1月の誕生日に休暇を取って温泉に一泊するのが自分へのご褒美。
湯の温度はぬるいのは勿論ダメ。熱すぎるのもダメ。
ちょっと熱いくらいがちょうどいい。
最初は熱い。でも、“(句読点の)ああ~”に耐えた後の“ああ~”。
身体を、心を、至福が包み込む。
ゆっくり湯に浸かった後は、湯上がりのビールもしくはコーヒー牛乳。冷たい水もいい。
そして、美味しいご飯。
ああ~、日本人で良かった。
日本人なら全員、この気持ち分かるでしょう!
日本人皆にある、それぞれの湯道。
さて話の方は、日本映画らしい王道と人情と群像劇のちょうどいい湯加減。
とある昔ながらの銭湯“まるきん温泉”。
東京で建築家をしている史朗は仕事に行き詰まり、実家の銭湯をマンションに建て替えようと考え、帰郷。
経営者だった父親が亡くなったばかりで、弟の悟朗が継いでいた。
無論、衝突。帰って早々喧嘩。が、ボヤ騒ぎで悟朗が入院し、史朗は銭湯を切り盛りする事に…。
この兄弟と、銭湯が大好きな看板娘のいづみの3人を軸に、
お風呂が大好きで、湯道にハマっている中年男性。定年後は自宅の風呂を檜風呂にしようと思っているが、家族は反対…。
近所の常連客たち。食堂の夫婦、いつも仲良く浸かりに来る老夫婦、一番に入りに来て歌を歌う中年女性は息子の帰りを待っている。その息子は…。
謎の風呂仙人。
いい湯に水を差すような温泉評論家。
そして、湯道の家元。若き師範。
一癖も二癖もある豪華なキャストが湯に浸かる。
似ても似つかないけど、やり取りは絶妙な生田斗真と濱田岳の銭湯屋兄弟。
橋本環奈が番台に立つ銭湯なら毎日行くで!
小日向文世、寺島進&戸田恵子、笹野高史&吉行和子、柄本明らはこの銭湯屋の住人にぴったり。
天童よしみもクリス・ハートもいい湯に浸かって美声を聞かせてくれる。
善人ファンタジーの中で、吉田鋼太郎はさすがの憎まれ役。
温泉評論家や名字研究家などおじさん連中の扱いが上手い朝日奈央。
唱える湯道は至って真面目なんだけど、角野卓造も窪田正孝も時々シュールに見えてくる。
おや、“湯婆婆”も。
キャストの豪華さは監督が支配人を務める殺人ミステリーホテル級だが、あちらがきら星の如く豪華絢爛なのに対し、こちらは味がある。
ホテルから銭湯へ。古びた銭湯の内装にも味がある。
“わ”と“ぬ”の意味、桶合図…銭湯うんちくも愉快。
人は何故、風呂に浸かるのか。
風呂は心の洗濯。浸かれば、しがらみも確執も悩みも綺麗さっぱり。
人は何故、お風呂が好きなのか。
裸になれば、人は皆同じ。性別も肩書きも身分も国籍や人種だって超える。これぞ“裸の付き合い”。成分なんかより尊いものがある。
人は何故、風呂に浸かると身体も心もあったまるのか。
天から授かった水。自然から授かった薪。それを人の手で沸かすから。
手間隙かけて苦労した分、尚更。格別。
たかがお湯。されどお湯。だけどお湯には人それぞれの思いが込められており、だからあったかい。
お風呂で人を幸せにする。
お風呂は人を幸せにする。
お風呂が人を幸せにする。
昔ながらの銭湯を見掛けなくなってきた。あるのは全国チェーンの銭湯くらい。
銭湯は遺物か。
確かに湯に浸かるの最上位は温泉だろう。
自宅のお風呂は最も手っ取り早い。
でもでもでも、
温泉なんてそう易々とちょくちょく行けやしない。
自宅の風呂じゃちょっと狭い。
そんな時足を伸ばせるのが、銭湯。
いい湯に浸かれば、身体も心もあったまる。
そうして繋がる人と人。
それもまた湯道。
いや、それこそ湯の道の極意なり。
自然と歌を歌いたくなる。上を向いて歩き、湯はマイ・サンシャイン。
自然と駄洒落だって言いたくなる。
いい湯だな。
いい映画だな。
さて、銭湯に行こうかな。