劇場公開日 2023年2月23日

「展開がベタで、対立する兄弟の考えが徐々に変化していき、父が残した銭湯をどうするのか、結論が出るまで予想通りの展開となりました。しかし日帰り温泉ファンとしては大変意義ある作品でした。」湯道 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5展開がベタで、対立する兄弟の考えが徐々に変化していき、父が残した銭湯をどうするのか、結論が出るまで予想通りの展開となりました。しかし日帰り温泉ファンとしては大変意義ある作品でした。

2023年2月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 数年前には「テルマエ・ロマエ」なんて映画もヒットさせたフジテレビ製作なので、日帰り温泉マニアとして、今回の映画によってふたたび銭湯ブームが来ることを期待しています。

 アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「おくりびと」など著名作品の脚本家である小山薫堂が、日本特有の入浴行為を文化としてとらえ提唱する「湯道」を基に、オリジナル脚本で映画化した作品です。
 監督は、「マスカレード・ホテル」、「マスカレード・ナイト」や「HERO」など、フジテレビ製作の映画をけん引する鈴木雅之。
今回も「マスカレード~」シリーズ同様、舞台となる銭湯そのものを作って撮影に挑んだという気合の入れ様です。

 そもそも「湯道」とは、茶道や華道や香道などと同じく日本古来の文化を継承する道として風呂のお湯を極める道として提唱されています。温泉も入りますが、自然と共生することを重視する「湯道」では、井戸水や川から汲み上げた天然水を沸かして入ることや、銭湯文化が主体です。

 物語は、亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に三浦史朗(生田斗真)が突然戻ってきたところから始まります。
 帰省の理由は店を切り盛りする弟の悟朗(濱田岳)に、古びた銭湯をたたんでマンションに建て替えることを伝えるためでした。
 実家を飛び出し都会で自由気ままに生きる史朗に反発し、冷たい態度をとる悟朗。
一方「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられた定年間近の郵便局員・横山(小日向文世)は、日々、湯道会館で家元から入浴の所作を学び、定年後は退職金で「家のお風呂を檜風呂にする」という夢を抱いてるが、家族には言い出せずにいたのです。そんなある日、ボイラー室でボヤ騒ぎが起き、巻き込まれた悟朗が入院することに。
 銭湯で働いてる看板娘・いづみ(橋本環奈)の助言もあり、史朗は仕方なく弟の代わりに「まるきん温泉」の店主として数日間を過ごします。
いつもと変わらず暖簾をくぐる常連客、夫婦や親子、分け隔てなく一人一人に訪れる笑いと幸せのドラマ。そこには自宅のお風呂が工事中の横山の姿も。不慣れながらも湯を沸かし、そこで様々な人間模様を目の当たりにした史朗の中で凝り固まった何かが徐々に解かされていくのでした。(HPより抜粋)

 前半は、「まるきん温泉」の常連客のエピソードが羅列していくところは、まるでフジテレビの銭湯バラエティを見ているようでした。そして、横山の足取りを追うことで、突如として顕れる湯道家元のシーンでは、まるでお茶や華道の作法かと思わせるような厳粛な和の精神を汲んだ、師範たちが披露する入浴儀式が描かれたのです。この湯道を描くシーンと「まるきん温泉」を描くシーンの関連が希薄で、違和感を感じました。この映画はどこに向かっていくのだろうと思っていたら、後半で根底にある「湯に浸かることの素晴らしさと大切さ」は同じであることを、ラストシーンによって集約されていったのです。
 このように映画ファンとしては、展開がベタで、対立する兄弟の考えが徐々に変化していき、父が残した銭湯をどうするのか、結論が出るまで予想通りの展開となりました。
 但し、mixi日帰り温泉関東+周辺コミュニティの運営に20年近く関わってきた者としていえば、大変意義のある作品だと感じました。
 昨年から今年になって、都内の銭湯でも20軒くらいの銭湯が閉店してしまいました。銭湯がブームにになっていているという昨今でも、銭湯の経営は大変厳しいのです。だから「まるきん温泉」でも兄弟が閉店してしまおうとしたことは自然の流れだったと思います。
 そこに客として突然とびこんで来たのが、風呂評論家の太田与一(吉田鋼太郎)でした。彼は源泉かけ流し主義で、銭湯自体が邪道で昭和の遺物だというのです。温泉でも循環式は断固拒否するという徹底した温泉至上主義者だったのです。
 銭湯を否定された悟朗は、憤慨して言い返すのです。銭湯だって井戸水を汲み上げて、かけながしている源泉かけ流しなんだと。これは本当です。銭湯の中には、まったりとした水質の良さを感じさせるところが多いのです。
 そして客のひとりは、お風呂は成分だけじゃないのだといってのけるのです。お風呂に入っても癒されるのは、温泉成分のせいではないのです。たぶん浴槽を包んでいる常連客の人情とか、湯を沸かす店主の気持ちが湯から伝わってくるものがあるからなんですね。だから「まるきん温泉」の常連客は、口々にお風呂はこころの太陽だと叫ぶのでした。
 源泉かけ流しの有名温泉に負けない銭湯の魅力とは、店主や常連客によって醸し出される暖かいこころ、居心地の良さであり、「湯を沸かすほどの熱い愛」を感じさせられる場所なんですね。そして、ボゥ~と入浴しているうちに、自然と煩雑な日常から離れて、本当の自分と向き合える場所になるのだと思います。
 贅沢なグルメにに舌鼓を打ち、温泉の蘊蓄を語り会う温泉旅の魅力を否定はしませんが、回数券を握りしめて、必死で自転車を漕いで通い詰めるという毎日の生活の中での銭湯通いのいいところにもぜひ注目してほしいと思います。
 『湯道』は毎日のお風呂生活の中で、こころを見つめるというまるで坐禅のような境地を説いているところにとても共感を持てました。実際に銭湯に通っている人はもそこまで深く湯船で内観している人はいないかもしれません。でも映画で描かれた「湯道」を実際に取り入れて、実践していく中で、何かしら悟りに近づいていけるのかもしれません。

流山の小地蔵