劇場公開日 2023年3月17日

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「登場人物とともに迷い、惑った後で、やりきれなさをかみ締めました。」The Son 息子 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0登場人物とともに迷い、惑った後で、やりきれなさをかみ締めました。

2023年3月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 前作「ファーザー」に続き、フロリアン・ゼレール監督が、ふたたび「家族」に向き合いました。「家族3部作」の2作目で、前作と同様、自身の戯曲を映像化したものです。前作となる『ファーザー』(2020年)は初長編監督作でアカデミー賞2部門に輝きました。

 タイトルはズバリ「息子」です。作品同様に思春期のお子さんをお持ちで、どう接していいのやらお悩みの方なら、どうしても父親の視点で見てしまうことでしょう。
 特に世代間の確執がいや応なく示されるあの一言を巡る応酬。それは困難を前にした息子に対し、その手を取り、「乗り越えろ」と期待する言葉でした。親として息子を鼓舞し期待することは罪なのでしょうか。ついつい当然のことと思って、「励ましてきた」のだったら、本作の驚愕すべき結末に触れて、それが本当に親だから当然なのか?と答えのない質問を出された気がしました。

 舞台はニューヨーク。優秀な弁護士のピーター(ヒュー・ジャックマン)は、再婚した妻ベス(バネッサ・カービー)と生まれたばかりの子供と忙しいながらも幸せな毎日を過ごしていました。ある日、離婚した元妻ケイト(ローラ・ダーン)が来訪。ケイトと暮らす17歳の息子、ニコラス(ゼン・マクグラス)が学校に通っていないと知り、息子と久々にと面談することになります。そして、ニコラスからいきなり父親の家に引っ越したいと懇願されます。かつて妻と息子を捨てた負い目もあったのか、ニコラスを引き取り同居生活が始まります。実はニコラスは心に病を抱え、絶望の淵にいたのでした。そのため望み通り自宅へ引き取っても、ニコラスは学校に通わず、おまけに自傷行為をやめられなかったのです。そんな息子のことを理解できないピーターは、例の「乗り越えろ」という言葉を連発し、それに反発したニコラスと激しくぶつかりあうのでした。

 ここで傑作なのは、ピーター自身、子どもの頃、家庭を顧みない横柄な父親(アンソニー・ホプキンス)から、「乗り越えろ」と打ちかつことを強要されていたことが、父親とのやり取りで明かにされることです。
 わだかまりを抱え、自分はそうならないと思っていたのに、同様のことを息子に求める自分がいることを思い知らされます。父と息子、互いに愛しているのに気持ちがどうにも伝わりません。そんな八方塞がりの状況を、端正な映像で示されました。

 ままならないのが人生ですが、「子育て」はその最たるものでしょうか。ピーターのように大統領選挙の選挙参謀に抜擢されるほどの立派な社会的地位も、その困難さを前に人は無力であることが痛烈に描かれます。「家族映画」は数あれど、子育てに対する敗北感は、あまり語られぬ負の感情。そこに果敢に切り込んだ異色作です。
 「ファーザー」ではアンソニー・ホプキンス演じる認知症の父親は、迷宮にいるかのように、自らの思考の中をさまよいました。出口が見えないということでは、本作も同じく迷宮の中にあります。
 本作はタブー視されがちなメンタルヘルス不調の問題も堂々提議。コロナ禍で若者の心の健康が危機的状態の今こそ、積極的に光を当てるべきテーマでしょう。

 登場人物とともに迷い、惑った後で、やりきれなさをかみ締めました。爽快さとはほど遠い、衝撃的な苦い結末。これも映画の醍醐味なのでしょうか。この結末には、無性に誰かにネタバレして、話しかけたくなりました。

流山の小地蔵