劇場公開日 2023年9月15日

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「彼に真の笑顔が再び灯るその日まで」熊は、いない 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0彼に真の笑顔が再び灯るその日まで

2023年9月29日
PCから投稿

表現や言論の自由が保証されていないイラン。パナヒ監督はこの国で、体制に対して反逆的な活動を行ったかどで禁固刑や映画製作の禁止を言い渡されるも、その後、制約の中で映画作りを続けている。こういった背景を考慮に入れて本作に臨むと、まずもって冒頭のどこか演劇的なワンシーンと、そこから二重三重の境界を超えてパナヒが映画とつながり合う様に、たったそれだけで観ている我々の胸は強く締め付けられる。映画は死なない。パナヒの情熱も全く死んでいない。本作はこの二つの「不死」を裏付ける作品と言えそうだ。だが、かくも制約下で表現し続ける精神を刻みつつも、パナヒはいつしか二組の愛し合う男女が陥った苦しみと直面せざるをえなくなる。立ちはだかる壁を前に、彼が浮かべる表情のやるせなさ。彼に笑顔が戻る日はやってくるのだろうか。我々にできるせめてもの支援は、何よりもまず彼の新作を待ち続けること。そして劇場で鑑賞し続けることだ。

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牛津厚信