イニシェリン島の精霊のレビュー・感想・評価
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親友から突然告げられた絶交宣言。意味分かんないよ〜と、固く閉ざした...
親友から突然告げられた絶交宣言。意味分かんないよ〜と、固く閉ざした心のドアをハの字眉で無邪気にノックしまくるコリン・ファレル。
これ以上近づいたら指を切るぞと自分の指を人質にする親友。それでもノックしまくるコリン・ファレルに、最初の制裁が下される。
距離感誤る者には切断した指を。大事なものを傷つける奴には火炙りを。想いの掛け違いや感情のもつれが、対岸に響く内戦の砲声と絶妙に絡み合いながら、ジリジリと2人の関係を歪な次元に追い詰めていく。イニシェリン島の美しき自然と動物が孤独な魂に静かに寄り添う。
コルムが友人の全てであるパードリックは執拗に関係に執着する。パードリック以外に繋がりがあるコルムは柔軟にコミュニティに溶け込む。ここから得られる教訓は、属するコミュニティや投資先は複数あった方がいいということ。
(そんなことが主題な訳ではないことは100も承知だが)ここがダメでも、こっちはあるしな〜とか、そうゆう、関係資本や投資先のストックはマジ重要。上野千鶴子が言っていた、「半身で関わる」ってマジでこーゆーことだよなと思う。
あと、理由を言わない、聞かない、知らないままで保たれる均衡は確実に存在する。パードリックは無邪気過ぎる。
争いはグロいが、互いに何処かに情を残しながら完全に悪にはなり切れない両者のその余地が、せめてもの救い。互いに制裁内容を事前に予告してあげるだけ可愛げがあるとゆうか、微妙に優しい。
あとは、静かに意味ありげな劇伴が絶妙に良過ぎる。手掛けたのはコーエン兄弟作品でお馴染みカーター・バーウェル。絶妙に不穏で、悲哀もあり、物語の孤独な世界観にバッチリハマっていた。
追記
この映画、何が刺さるかと言ったら田舎描写。コルムが、「自分何やってんだ、ここで無駄なことに費やして人生消費しても仕方ない、交友関係見直そう」と思う気持ち、わからんでもない。1番分かり味深いのはパードリックの妹ですよ。彼女が言っていること、周りから取られる態度、だから最後に取った選択は、田舎暮らししていた人ほどブッ刺さる。
空気が透明で、鋭く冷たい。
一昔前、六本木WAVEにあったシネヴィヴァンあたりが上映館としてふさわしいタイプの作品。といえば、わかる人にはわかるだろう。理不尽なほど多様な、作家の世界観が前面にあるタイプの作品の数々が、六本木のスクリーンを染めた。マーティン・マクドナー脚本・監督の本作も、観る者がトラウマになりそうなメランコリックな怪作だ。
良かったのひとこと
買った映画祭のパンフレット見ると1923年が舞台らしい。アイルランド内戦が終わる頃。ドンパチと煙がそれを表してくれるが、島の人にとっての日常には何ら関係ない。
そんな中、日常ではいられないのが主人公のパードリック。長年の友人に接触を拒否され続ける。予告編ではそこが自分には疑問というか謎だったが、友人のコラムは多種多芸。パードリックは妹に何度注意されても牛を家の中に入れるとか、そういった所作しかない。そして決まった時間にパブに行く。仲間と談笑する。
そんな兄との生活に嫌気がさして本土、ロンドンか、それともアイルランド本土に渡って刺激的な生活を送ってると手紙が来ても、自分は島に残るという。
コラムとしては、残された人生を無為に過ごしたくないという思いがあっての絶縁宣言だったような気がする。実際、バイオリンで曲を演奏したり、人間味の深さを感じさせたし、そんなコラムを追い詰めたパードリックに、パブのオーナーが怒るのもわかる。
みんなどこかで、非日常を期待してるのだ。
翻って自分たちはどうだろう。日々の日常を当然と考え、とりあえず食べられてるし、いいかと、そのルーチンの中で有する疑問を粉砕してしまっている。指を切り落とす以上の事件があっても。
そんなことを考えさせられた映画だった。
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