「オッサンの痴話喧嘩が教えてくれるもの。」イニシェリン島の精霊 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
オッサンの痴話喧嘩が教えてくれるもの。
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オッサン同士のかなりシュールな痴話喧嘩を通じて浮かび上がるのは、個人と個人のすれ違いだけじゃない。ひとつの社会の中で起きる分断、それぞれが常識だと思っていたものの相違とぶつかり合い、そしてこじれ始めると留まることのない社会不和。騒動の当事者であるパードリックとコルムは、知性に欠けた愚か者と、どこかで相手を見下している教養人として登場するが、それもパードリックの妹シボーンによって、所詮は五十歩百歩だと暴かれてしまう。果たして本物の知識や教養があれば、バカげた諍いは避けられたのか。変化を求めない島の住民たちは、緩やかに滅んでいくのを待つだけなのか。明るい未来を求めるなら、シボーンのように、故郷を捨てて新天地を目指すしかないのか。経済的にも世相としても停滞感が色濃い現在の日本と、いかに似ていることかと悄然とした。そしてこういう複雑でヘビーなテーマをコメディの枠で作ってしまえるマクナドーの知性とユーモアには今後も注目していきたい。
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