「精霊の魔法の杖」イニシェリン島の精霊 norinoriさんの映画レビュー(感想・評価)
精霊の魔法の杖
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まちがいなく忘れられない映画の一本になると思う。
脚本の妙、役者の演技、映像の効果、どれも最高だった。
最も心を鷲掴みにしたのがドミニクの存在だ。
物語を理解するための補助線としての役割に加え、バリー・コーガンの演技力で、不世出のキャラクターが誕生したと思う。
そのドミニクは冒頭不思議な棒を拾う。先に鉤が付いている。漁具にも見えるが、島育ちのドミニクもなんの道具かわからない。
そんな棒を手に、ドミニクはパードリックの傷心に寄り添い、シボーンを絶望から救う。
特にシボーンとの絡みが絶妙だった。シボーンが警官に「だからだれからも好かれないんだな」と言われ、もう死んじゃおうかな、という感じで湖のほとりに立っていると、警官の息子であるドミニクがやってきて唐突に愛を告白するのだ。シボーンはもちろん断るのだが、笑顔を取り戻している。島を去る勇気も得たはずだ。
哀れなドミニクは水死体となり、あの不思議な棒の鉤で岸に引き揚げられる。
あれは精霊の魔法の杖か、死神の鎌か。
ラストでは不気味な老女がその棒を手にパードリックとコルムを見つめている。精霊の企みはまだ続くらしい。
答えもない、カタルシスもない、救いもない映画だけれど、何度でも観たい。たぶんその度に発見があるだろう。
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